Blender Eevee Next 建築archviz完全ガイド|Legacy比較・新機能5選・Cycles使い分け【2026年版】

Blender 4.2 LTS(2024年7月リリース)で「Eevee」は中身がまるごと作り替えられ、現在のEeveeは正式には Eevee Next と呼ばれる新しいリアルタイムレンダラーです。Virtual Shadow Maps(影を必要な場所に集中させる仕組み)やスクリーンスペースのレイトレーシング(光線追跡)が標準で動くようになり、Blender 4.5 LTS(2025年7月リリース)ではさらに自己シャドウの問題も改善されました。現行は Blender 5.1 が最新で、長期サポート版(LTS)としては 4.5 が建築archviz実務の安定推奨ラインです。

この記事では、Eevee Next の新機能5つの設定方法、Legacy(旧Eevee)から移行するときに壊れる設定とその直し方、建築archvizでEevee Nextを使うべき場面、そしてCyclesに近い品質に寄せる設定までを体系的に解説します。

「Blender 4.x に上げたら昔の設定が効かない」「Eevee Nextは本当に建築実務で使えるのか」と迷っている方が、現行バージョン基準で迷わず設定を組めるところまでをゴールにします。

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目次

Eevee Nextとは何か|Blender 4.2でレンダラーが別物になった理由

Eevee Next は旧Eevee(Legacy)と名前は似ていますが、内部構造は全面的に作り直された別のレンダラーです。Blender 4.2 LTS で正式実装され、シャドウ・間接光・ライト上限の3つの土台が根本から変わったため、Legacy時代の設定知識はそのままでは通用しません。

Eevee NextがBlender 4.2で正式実装された経緯

Eevee は2019年の登場から積み上げで拡張されてきましたが、レイトレーシング・高解像度シャドウ・大量ライトといった現代的な要求に応えるには内部構造が限界に近づいていました。Blender 4.2 LTS(2024年7月16日リリース、Blender 4.2 LTS リリースノート)で、Eevee は土台から作り直され、正式名称も Eevee Next に切り替わりました。

旧Eevee(Legacy)は Blender 4.1 以前の設計で残っていましたが、4.2 以降はソースから削除されています。Blender 4.1 以前で作ったプロジェクトを 4.2 以降で開くと、レンダラー設定は自動的に Eevee Next に置き換わりますが、Material Blend Mode・Bloom・Ambient Occlusion など一部の設定は新しい仕組みに自動変換されないため、開いた直後にレンダリング結果が変わって見えることがあります(詳細は後述の「Legacy設定からの移行」で解説します)。

「Eeveeの設定で検索したら情報が古い」という事故の多くは、この4.2を境にした設計変更が原因です。2026年5月時点で建築archviz実務の基準にすべきバージョンは、現行LTSである Blender 4.5 LTS(2025年7月15日リリース、サポートは2027年7月まで/Blender 4.5 LTS リリースノート)です。最新版を試したい場合は Blender 5.1 を使い、安定して案件を回す場合は 4.5 LTS にとどめる、という二段構えが現実的です。

Eevee NextがLegacyと根本的に違う3点

Eevee Next と Legacy の違いは細かく数えると多岐にわたりますが、建築archvizに効くのは次の3点です。

比較項目 Eevee Legacy(〜4.1) Eevee Next(4.2〜)
シャドウシステム 固定解像度シャドウマップ。バイアスを手動調整 Virtual Shadow Maps。高解像度・低バイアス・自動最適化
間接光(GI) Irradiance Volume のベイクが必須 スクリーンスペース/レイトレースGI(ベイク不要)と Light Probe Volume(旧Irradiance Volume、ベイク必要)の二系統
ライト上限 128灯(Sun Lightは8灯) 4,096灯(同時に視界内に映る上限。シーン総数の上限ではない)
ガラス透過 Screen-Space Refraction(画面内のみ・限定的) Raytraced Transmission(より正確)
Bloom(光のにじみ) レンダー設定で直接ON/OFF コンポジターの Glare > Bloom に移行
Ambient Occlusion レンダー設定で直接ON/OFF Raytracing > Diffuse または Fast GI Approximation に統合
HDRI からの影 World Shadow を別途設定 HDRI から太陽光を自動抽出して影を生成

①シャドウは、固定解像度のシャドウマップから Virtual Shadow Maps(仮想シャドウマップ、必要な解像度を必要な場所に割り当てる仕組み) に置き換わりました。Legacy では「影がジャギる」「シャドウバイアスを手動で詰める」のが日常でしたが、Eevee Next ではこの調整が大幅に減ります。

②間接光は、Legacy では Irradiance Volume を配置してベイクするのが基本ルートでしたが、Eevee Next ではスクリーンスペースとレイトレーシングを使う 画面内GI(ベイク不要) が追加されました。一方で深い間接光・画面外からの跳ね返りには、旧 Irradiance Volume をリネームした Light Probe Volume(ベイクが必要) が引き続き使えます。「ベイクが要らなくなった」と単純化される説明をよく見ますが、実態は二系統並存です。

③ライト上限は、Legacy の128灯から 4,096灯 に拡張されました。これは「画面内に同時に映るライトの上限」で、シーン全体に置けるライトの総数の上限ではありません(Blender Developers Blog: EEVEE Next Generation in 4.2 LTS)。建築の大規模都市夜景や、家具ごとに小さなIESライトを配置する場合でも、実務上はほぼ気にせず光源を増やせる水準になっています。

Eevee Next新機能5選|建築archvizで変わること

建築archvizに直接効くEevee Nextの新機能は5つです。Virtual Shadow Maps・Raytraced Reflections・Raytraced Transmission・グローバルイルミネーション(GI)の二系統運用・HDRI自動太陽抽出を順に見ていきます。設定値は Blender 4.5 LTS 基準で記載します。

①Virtual Shadow Maps|シャドウ品質が劇的に改善

Virtual Shadow Maps は、必要な解像度を必要な場所に集中させる 適応型のシャドウ です。Legacy では「広いシーン全体に同じ解像度のシャドウマップを張る」仕組みだったため、近景でジャギ、遠景でメモリ無駄遣いが同時に起きていました。Eevee Next ではこの問題が構造的に解消されています。

シャドウバイアスもほぼ自動化され、Legacy 時代の「Bias を 0.001 単位で微調整する」作業はほとんど不要になります。Shadow Map Raytracing が組み合わさることで、ジッタリング(影のチラつき)なしで自然なソフトシャドウが得られます。

設定は Render Properties > Shadows にまとまっています。Pool Size(シャドウ用に確保するVRAM、既定512MB)は、建築の大規模シーンや内観の多灯シーンでシャドウが消える場合に 1〜2GB に上げます。Sun Light のカスケード制御は Step Size(旧称 Cascade 系設定の現行表記)で行います(Blender 5.1 Manual: Light Settings (EEVEE))。

低スペック環境で「ビューポートでシャドウが消える」「描画が止まる」という症状が出たら、まず Pool Size を上げるのが定石です。VRAM の足りない GPU では、Pool Size を上げる代わりに不要な Sun/Spot ライトを削るほうが効くこともあります。

②Raytraced Reflections|ガラス・床面の反射が正確に

Raytraced Reflections は、画面外のオブジェクトを含めた反射をレイトレースで計算する機能です。Legacy の Screen-Space Reflection は「画面内に映っているものしか反射しない」制約があり、建築外観のガラスカーテンウォールや光沢床に「映っているはずの空が消える」現象がよく起きていました。Eevee Next ではこの制約が解消されます。

有効化は Render Properties > Raytracing で行い、Reflections の項目をオンにします。建築archvizで効くのは外観のファサードガラス、内観の鏡面床、光沢タイル、水面のあるエントランス回りなどです(Blender 5.1 Manual: Raytracing)。

主要な設定は3つです。

  • Resolution: 反射の計算解像度。1 / 1/2 / 1/4 / 1/8 / 1/16 の選択式。確認用は 1/2、最終品質は 1、軽量化したいときは 1/4 が目安
  • Trace Precision: 既定 1.0。値を下げると速度が上がる代わりにスクリーンエッジで反射が消えやすくなります。建築のファサード反射では 0.75〜1.0 が実用域
  • Roughness Threshold: この値より粗いマテリアルは Fast GI(後述)にフォールバックされます。鏡面のみレイトレース、ザラついた金属は近似でOKという切り分けが自動でかかります

平面の反射、たとえば床・池・大判ガラスファサードは、レイトレースに任せるよりも Light Probe Plane(旧 Reflection Plane、Shift+A > Light Probe > Plane) を並べるほうが安価かつ高品質になります。閉じた部屋の中で「特定の領域だけ反射がおかしい」場合は Light Probe Sphere(旧 Reflection Cubemap) を置いてローカル反射を補強します。建築archvizではこの「Volume(GI)/Plane(床・大判ガラス)/レイトレース(細部)」の三層構成が、Cyclesに近い結果へ最短で寄せる定番パターンです(Artisticrender: What are light probes in Blender and how do they work?)。

③Raytraced Transmission|ガラスの透過・屈折が改善

Raytraced Transmission は、ガラスや半透明素材を抜けていく光の計算をレイトレースで行う機能です。Legacy の Screen-Space Refraction は「画面に映っているものしか屈折できない」制約があり、建築の窓越しの景色や、内観のガラステーブル越しに見える家具がうまく出ない原因になっていました。Eevee Next ではこの制約が外れます。

対応するシェーダーも広がり、Glass BSDF・Refraction BSDF・Translucent BSDF・Subsurface Scattering まで含めて Raytracing パイプラインに乗ります。建築の窓ガラス、ガラスファサード、アクリル什器、ガラステーブル天板など、透明素材を含む内観・外観で効果が出ます。

設定は Render Properties > Raytracing > Refraction(屈折成分のレイトレース)を有効化します。建築のガラス窓は反射と屈折の両方が見えるため、Reflections と Refraction を併用する構成が一般的です。マテリアル側では Principled BSDF の Thickness 出力を使うと、薄板ガラスの屈折表現を破綻なく扱えます。Cyclesに完全に近づくわけではありませんが、Legacy時代に「ガラス越しの景色が空っぽ」だった問題はおおむね解決します。

④グローバルイルミネーション(GI)|画面内GIと画面外GIの二系統を併用

Eevee Next のGIは、画面内GI(レイトレース)と画面外GI(Light Probe Volume)の二系統を組み合わせて使うのが公式推奨の運用です。「Eevee Next はベイクが不要になった」という説明だけでは半分しか正確ではなく、内観の深い間接光まで含めると Light Probe Volume のベイクが依然として必要になります(Blender 5.1 Manual: Light Probe Volume)。

画面内GI は、Render Properties > Raytracing > Diffuse を有効化することで動きます。画面の中に映っている範囲では、間接光がリアルタイムで計算されます。ベイクは不要なので、ライティングを試行錯誤している段階や、プレゼン用の中間確認では十分にきれいな結果が得られます。

画面外GI は、Shift+A > Light Probe > Volume(旧 Irradiance Volume)を配置して、Object Data Properties で Resolution(プローブ密度)と Bake Indirect Lighting を実行します。これは Legacy 時代と同じベイク方式で、画面外から差し込むバウンス光、ガラス越しの間接光、天井裏でくぐもる光など、スクリーンスペースでは絶対に届かない光を補完します。

建築内観の標準ワークフローは、Light Probe Volume をベイク → Raytracing > Diffuse を有効化 → 両方を併用する の三段構成です。これで Cyclesに近い間接光のリッチさを Eevee Next 上で得つつ、確認の高速さも維持できます。最終品質まで詰めるとCyclesに一歩譲りますが、プレゼン・中間確認・アニメーションには十分実用域です。

⑤HDRI自動太陽抽出|環境テクスチャから自然な影を生成

Eevee Next には、HDRI(屋外光を360度撮影した実写の光情報)の中から一番明るい点を「太陽」として自動的に検出し、その方向から仮想的な Sun Light を出す機能があります。Legacy 時代は HDRI だけ読み込んでも影が落ちず、別に Sun Light を手動で置く必要がありましたが、Eevee Next では HDRI 単体で建築外観のシャープな影が出るようになりました。

設定は World Properties > Surface > Settings > Sun Disc で行います。主要なパラメータは次の3つです。

  • Sun Threshold: 太陽と判定する輝度の閾値。値を下げると小さな光源も太陽扱いになるため、空に強い反射光がある HDRI では上げ気味にすると影が暴れません
  • Sun Angle: 影の硬さ。建築外観でカリッとしたシャープな影が欲しければ 0.5° 前後、内観で柔らかい光が欲しければ 2〜3° 程度が目安
  • Sun Shadow: HDRI から抽出した太陽からの影の有効化。既定でオフ のため、HDRI で影を出したいときは必ずオンにします

HDRI Strength と Sun Strength のバランスは、外観だと HDRI Strength 0.7〜0.8、Sun Strength 2〜4 が建築の現実的な明るさになる目安です。室内に HDRI を引き込むときは HDRI Strength を 0.3〜0.5 まで落とし、別途 Area Light を置く構成が安定します。

Legacy設定からの移行|壊れる設定とその修正方法

Blender 4.1 以前のプロジェクトを 4.2 以降で開いた場合、Eevee Next は自動的にレンダラーとして適用されますが、一部の設定は自動変換されません。レンダリング結果が「保存したときと違う」と感じたら、ここで挙げる5つの項目を確認します。

移行時に注意すべき設定変更の全体像

主要な変更点は次の表に整理した5項目です。プロジェクトを開いて違和感があったら、上から順に見直します。

旧設定(Legacy) 新設定(Eevee Next) 自動変換 影響
Material > Blend Mode Render Method Alphaクリップが透けない/逆に透ける
Render Settings > Soft Shadows Object Data > Light > Shadow > Filter Radius(Sun/Area)または Soft Shadows(Point/Spot) × 影の柔らかさがリセット
Render Settings > Bloom コンポジターの Glare > Bloom × 光のにじみが消える
Render Settings > Ambient Occlusion Raytracing > Diffuse または Fast GI Approximation × 接触部の暗さがリセット
Irradiance Volume / Reflection Plane / Reflection Cubemap Light Probe Volume / Plane / Sphere リネーム。ベイクワークフローは維持

Material Blend Mode は Render Method に名称と挙動が変わりました。Alphaクリップを使った植栽・透過テクスチャは、新しい設定で再確認が必要です。

Shadow の Soft Shadows はレンダー全体の設定からライトごとの設定に移されました。Object Data Properties > Light > Shadow の Filter Radius(Sun / Area Light)または Soft Shadows(Point / Spot Light)で個別調整します。古い記事で「Light > Data > Shadow > Jitter」と書かれていたら、それは初期暫定名称で、現行マニュアルでは Filter Radius / Soft Shadows に整理されています。

Ambient Occlusion の単独パネルは廃止されました。精密に出したい場合は Render Properties > Raytracing > Diffuse を有効化、軽量に近似で済ませたい場合は同じ Raytracing パネル内の Fast GI Approximation を使います。Fast GI は Roughness Threshold で粗いマテリアルをカバーし、Thickness(Near / Angular) で光漏れとコンタクトオクルージョン(接触部の暗さ)の精度を調整できます。低スペックGPUで「Raytracing をフルで回すとビューポートが重い」場合は、Diffuse を切って Fast GI のみで運用するという選択肢もあります。

Light Probe 3種はリネームだけで、ベイクワークフロー自体は維持されています。旧プロジェクトを開けば自動的に新名称に置き換わるので、再ベイクは基本的に不要です。

Bloomの再現方法|コンポジターのGlare設定手順

Legacy の Bloom(光のにじみ)は、Eevee Next では Render Properties から消え、コンポジターの Glare ノードに移されました。「夜景の照明がぼんやり光らない」「ハイライトの周りに光のにじみが出ない」と感じたら、コンポジターの設定不足が原因です。

手順は次のとおりです。

  1. 画面上部のワークスペース切り替えで Compositing を開く
  2. Use Nodes」にチェックを入れ、Render Properties > Post Processing > Compositing もオンにしておく
  3. Add > Filter > Glare ノードを追加し、Render Layers の Image を入力、Composite の Image に出力する
  4. Glare のタイプを Bloom(または Fog Glow)に設定し、Threshold(光ると判定する輝度)と Size(にじみの広がり)を調整する

ここで重要なのは、Glare の Bloom は Legacy の Bloom と色味が完全には一致しない という点です。公式トラッカーでも「Glare が色をスキューする」事象が議論されているレベルで(Blender Issues #121639Interplanety: Enabling the Bloom effect in Blender 4.2)、Legacy プロジェクトをそのまま 4.2+ で開いても見た目は揃いません。Threshold・Size・Color Modulation を再調整して合わせ込む前提で考えるのが現実的です。

建築archvizでは、夜景パースの窓越しの照明、内観の間接照明、ガラスペンダントライトのにじみなど、雰囲気作りに直結する設定です。Legacy 時代の値を覚えていても、移行後は一度ゼロから詰め直すつもりで臨むのが結果的に近道です。

建築archvizでのEevee Next活用場面3選

Eevee Next を建築archvizで使う場面は、大きく3つに分けられます。中間確認・プレゼン・アニメーションの順に、Cycles と Eevee Next の使い分けの基準が見えてきます。

場面①中間確認・ライティング調整(最も多用)

ライティング・マテリアル・カメラを試行錯誤している段階では、Eevee Next が特に有利です。Cycles で1回数分のレンダリングを繰り返すと、1日の制作時間の大半が待ち時間に消えますが、Eevee Next ならビューポートでほぼリアルタイムに結果が見えます。

具体的には、住宅案件でリビング・ダイニング・キッチンの3カット同時納品を進めているとき、各カットの太陽光の入り方を比較したい場面で効きます。Cycles だと1カットずつしか確認できませんが、Eevee Next なら同じ秒数で3カットを切り替えながら太陽角度を詰められます。「ライティングは Eevee Next で確定 → 最終出力は Cycles」というワークフローが、現状の建築archviz実務で最も時短になるパターンです。

Raytracing を有効化したEevee Next の確認画質はCyclesに近い方向性を再現できるため、最終出力との差は「光のリッチさ」と「ノイズの最後の詰め」に集約されます。方向性のチェックには十分な品質です。

場面②プレゼン用途(クライアントへの提案)

プレゼンや中間提案では、Eevee Next 単体で品質を担保できる場面が増えています。外観パース、シンプルな内観、家具配置を絞ったLDKカットなどでは、Cycles と並べて比較しても「クライアントが気にしない差」のところまで詰められます。

短時間で複数アングルを出す必要があるプレゼンでは、Eevee Next の速度が直接効きます。コンペ用プレゼンボードでA1サイズに6カット並べる場面では、Cycles で全カットを最終品質にすると数時間〜半日かかりますが、Eevee Next なら同じ時間内で構図を詰め直す余裕が生まれます。

「フォトリアルの最終品質」より「早く確認できること」をクライアントが優先するフェーズでは、Eevee Next が現実的な選択肢になります。

場面③アニメーション・ウォークスルー

建築のウォークスルー動画や、内観を移動するアニメーションでは、Eevee Next がほぼ唯一の現実解です。1フレームに数分かかるCyclesで300〜600フレームを回すと、1秒の動画に数時間〜1日かかります。Eevee Next なら同じ尺を現実的な時間で出せます。

Virtual Shadow Maps とレイトレースGIの組み合わせは、アニメーションでの影のチラつきも大幅に減らします。Legacy 時代に悩まされていた「フレーム間で影の境界が動く」「間接光がフリッカーする」といった現象は、Raytracing Denoise の Temporal AccumulationBilateral Filter を併用することで実用域まで抑えられます。

建築実務では、「静止画はCycles、動画はEevee Next」という使い分けが、現時点で最も合理的なラインです。

Eevee NextでCyclesに近づける設定|レイトレーシング品質の最大化

Eevee Next は設定を詰めれば、内観・外観のかなりの範囲でCyclesに肉薄する画作りまで持っていけます。レイトレーシングの最大化・VRAMとのバランス・Light Probe 3種の使い分けの3つで、現実的な設定値が決まります。

レイトレーシング全項目の有効化と品質設定

最終品質を狙うときは、Render Properties > Raytracing をオンにし、ReflectionsDiffuseRefraction の3項目すべてを有効化します。これでガラス反射・間接光・透過の屈折がすべてレイトレースで処理されます。

項目 確認用(軽い) 最終品質(重い)
Raytracing > Reflections ON ON
Raytracing > Diffuse OFF または Fast GI ON
Raytracing > Refraction ON ON
Resolution 1/2 〜 1/4 1
Trace Precision 0.5 〜 0.75 0.75 〜 1.0
Denoise(Spatial / Temporal / Bilateral) Spatial のみ 3種すべて有効
Sample Clamp 既定 既定 〜 やや低め

Resolution は1にすると最終品質、1/2が確認用の標準、1/4以下は高速プレビュー用です。Trace Precision は既定 1.0 で、下げると速度が上がる代わりにスクリーンエッジの反射が消えやすくなります。建築のファサード反射では 0.75〜1.0 を維持するのが安全です。

Denoise は Spatial Reuse・Temporal Accumulation・Bilateral Filter の3種類があり、組み合わせて使うとフリッカーとノイズを同時に抑えられます。アニメーションでは Temporal Accumulation を必ず有効化します。Sample Clamp は極端に明るいピクセル(火やライトの芯)を抑える設定で、動画でちらつきが気になる場合に少し下げます。

VRAMを節約しながら品質を維持するバランス設定

GPU の VRAM が 8〜12GB クラスの環境では、品質を全部上げるとビューポートが止まったり、最悪フリーズします。実務で安定するバランス設定は次の手順で詰めます。

  1. Shadow > Pool Size は既定 512MB のままスタート。ビューポートでシャドウが消える症状が出たときだけ 1〜2GB に上げる
  2. Raytracing > Resolution を 1/2 にする。これで品質は概ね維持したまま、計算時間が大幅に短くなる
  3. Light Probe Volume は内観の主要エリア(リビング・ダイニング・寝室など)だけに絞って配置してベイクする。空き部屋・廊下まで Volume で覆うとベイクが膨張する
  4. Fast GI ApproximationRoughness Threshold を活用し、ザラついた金属・木材は Fast GI に任せて、鏡面のみレイトレースで処理する
  5. ノートPC級の VRAM 環境では、Raytracing > Diffuse をOFF にして Fast GI のみで運用 する選択肢もある。Thickness(Near / Angular)で光漏れと接触部の暗さを微調整すれば、内観でも実用的な絵になる

「品質をフルで上げる」より「自分の GPU で安定する上限を探る」のが、Eevee Next を実務で使うコツです。

Light Probe Volume / Plane / Sphere で画面外GI・平面反射を補強

Eevee Next の Light Probe は Volume / Plane / Sphere の3種類があり、それぞれ役割が違います。スクリーンスペースとレイトレースで届かない領域を、Light Probe で物理的に補強する考え方です(Blender Developer Docs: Sphere Light-Probes)。

  • Light Probe Volume(旧 Irradiance Volume): 室内のバウンス光をベイクする補助プローブ。Shift+A > Light Probe > Volume で配置し、Object Data Properties で Resolution(密度)を上げてから Bake Indirect Lighting を実行します。建築内観で深い間接光を出したいときの必須プローブ
  • Light Probe Plane(旧 Reflection Plane): 床・水面・大判ガラスファサードなど、平面反射を高品質化するプローブ。レイトレースより安価で安定。床にPlaneを敷くだけで、家具やオブジェクトの映り込みが一段リッチになる
  • Light Probe Sphere(旧 Reflection Cubemap): 閉じた部屋の中や特定のオブジェクト周辺で、ローカルな反射を補強するプローブ。鏡張りの空間や、ガラス棚の中身の反射などに効く

建築archvizの標準パターンは、Volume(GI)+ Plane(床・大判ガラス)+ レイトレース(細部)の三層構成 です。この組み合わせで、Cycles に最も近い質感まで Eevee Next を寄せられます。Cyclesと完全に同じ画にはなりませんが、プレゼン・中間確認・アニメーション用途では「Cyclesと並べて差を感じない」レベルまで到達できます。

Eevee NextのHDRIライティングとシャドウ設定

建築archvizで日常的に使うのは、HDRIで環境光と影をまかなう外観・内観のライティングです。Eevee Next ではHDRIからの太陽抽出と、ライトごとのソフトシャドウ設定、4.5 LTS で追加された Shadow Terminator Bias の3点を押さえれば、シャドウ周りはほぼ完結します。

HDRI環境テクスチャとSun Light自動抽出の設定

HDRI の太陽抽出は World Properties > Surface > Settings > Sun Disc に集まっています。HDRI を読み込んだ後、Sun Disc の有効化と Sun Shadow のチェックを忘れないことが、Legacy からの最大の差分です。

設定手順は次のとおりです。

  1. World Properties > Surface で Background ノードに HDRI を接続する
  2. Settings > Sun Disc 内の Sun Threshold を 1〜10 程度で調整し、太陽と判定する輝度の閾値を決める
  3. Sun Angle で影の硬さを設定する。建築外観のシャープな影なら 0.5° 前後、柔らかい内観なら 2〜3°
  4. Sun Shadow をオンにする(既定オフ なので必須)

HDRI Strength と抽出された Sun Light の Strength のバランスは、建築外観で HDRI 0.7〜0.8 / Sun 2〜4、室内に光を引き込む場合は HDRI 0.3〜0.5 / Sun 1〜2 が目安です。HDRI だけ強くすると影が出ず、Sun だけ強くするとフラットな環境光が消えるので、両方をスライダーで往復して詰めます。

Virtual Shadow MapsのSoft Shadows設定

Eevee Next ではソフトシャドウの設定がライトごとに分かれています。Legacy では Render Settings 全体の Soft Shadows トグルでまとめて制御していましたが、4.2 以降はオブジェクト単位で柔らかさを調整します。

ライト種別 設定場所 設定項目
Sun Light / Area Light Object Data Properties > Light > Shadow Filter Radius
Point Light / Spot Light Object Data Properties > Light > Shadow Soft Shadows

値を大きくするほど影が柔らかくなります。建築外観の Sun Light ではシャープな影が欲しいので 0.5〜1.0 前後、内観の天井裏に置いた Area Light では柔らかい光が欲しいので 3〜5 程度が目安です。古いチュートリアルで「Jitter」という呼称が出てきますが、これは Eevee Next 初期の暫定名で、現行マニュアルでは Filter Radius / Soft Shadows に統一されています。

World からのHDRI影(World Shadow)は、前述の World Properties > Settings > Sun Disc 内の Sun Shadow で制御します。既定でオフのため、「HDRI を読み込んでも影が出ない」というトラブルの多くはここで止まっています。

Shadow Terminator Bias で terminator artifact を抑える(4.5以降)

Blender 4.5 LTS(2025年7月リリース)で追加された Shadow Terminator Bias は、低ポリゴンの壁・家具・サッシで発生する「影の境界の縞模様(terminator artifact)」を抑える設定です。Cycles に同名・同役割の設定がもともとありましたが、Eevee Next 側にも実装され、建築archvizでの自己シャドウ問題が大きく改善しました(Blender 4.5 LTS Release Notes: EEVEE)。

設定はオブジェクト単位で、Object Properties > Visibility > Shadow Terminator に2つの項目があります。

  • Shadow Terminator Normal Offset: 影の境界を法線方向に少しシフトして、縞模様を物理的に避ける。既定はバイアスなし。問題が出たオブジェクトだけ 0.05〜0.2 程度から試す
  • Shadow Terminator Geometry Offset: 影響を受ける面の範囲を制御する

建築の壁面・家具・サッシ・階段の踏面など、低ポリで作っている部位で「太陽光が当たっている側の面に黒い縞が走る」現象に効きます。すべてのオブジェクトに一律でかけるのではなく、問題が出た部分だけ Normal Offset を 0.1 前後から試して詰めるのが定番手順です。

Blender 4.5 LTS では、合わせて「大光源(広いArea Lightなど)からの光漏れ」も改善されており、Eevee Next の品質は4.2リリース時より明確に一段上がっています。

Eevee Next を編集部が読み解いた所感

Eevee Next については、公式リリースノート・公式マニュアル・公式ブログ・海外archvizコミュニティのスレッドを横断して読み解くと、いくつか共通した見解が浮かびます。実機での網羅的なベンチマークを取材ベースで実施したわけではないため、ここでは「公式ドキュメントと海外レビューを読み解いた編集部の見立て」としてまとめました。

総合評価としては、Eevee Next は 「Legacy の単なる強化版」ではなく「Cyclesに寄せた中間品質を狙うリアルタイムレンダラー」 として再設計されたと読むのが自然です。Virtual Shadow Maps・Raytracing・Light Probe Volume の組み合わせで、これまで Cycles に逃げざるを得なかった内観の間接光がEevee Next 側でかなり処理できるようになっています。建築archviz実務では、中間確認・プレゼン・アニメーションの3用途で Eevee Next を主軸に置く判断が現実的になりました。

コスト・実用面では、GPU の VRAM が 8〜12GB あれば建築の中規模シーンは十分に回ります。Raytracing > Resolution を 1/2 に下げる、Pool Size を必要時のみ 1〜2GB に上げる といったバランス調整で、ノートPC級のGPUでも実用域に持ち込めます。Cyclesと違って GPU を選ばず(Vulkan バックエンドの整備で AMD/Intel GPU でも品質が揃ってきています)、ベンダー縛りが弱いのも建築archviz実務ではありがたい性質です。

制約・注意点としては、画面外GIの深さは Light Probe Volume のベイク前提で、Cyclesのような「設定してレンダリングするだけで間接光が完璧に回る」状態には届きません。ガラスの多層屈折、内観の深い間接光の最終段、フォトリアル静止画の最後の詰めは、現状でも Cyclesに優位があります。Bloom が Legacy と色味が完全一致しないなど、移行時の細部の合わせ込みも依然として必要です。

推奨ユーザー像としては、「Cyclesを最終出力に使いつつ、中間確認とアニメーションをEevee Next に寄せたい建築archviz実務者」 が最大公約数です。Cycles と Eevee Next のどちらかを選ぶ二者択一ではなく、用途で使い分ける前提に立つと、Eevee Next の真価が見えてきます。

Eevee Next を整えた先に広がる建築archvizの可能性

Eevee Next の設定をしっかり整えると、建築archviz の制作フローそのものが変わります。これまで「Cyclesで全部やる」前提だったライティング検討・中間確認・プレゼン・アニメーションが、別の選択肢を持つようになるからです。

設定を整える前の制作では、ライティングを1段階変えるたびに数分待ち、クライアントに見せる案を3つ作るのに半日かかる、というのが普通でした。Eevee Next を主軸に置いたフローでは、同じ半日で10案以上の比較ができるようになります。「太陽角度を15°ずつ振った6パターンをクライアントに見せる」「家具配置を3案並べてLDKの動線を比較する」といった、これまで現実的でなかった提案が成立します。

アニメーション・ウォークスルーが現実的になることも、提案できる成果物の幅を広げます。これまで静止画3カットで終わっていた住宅プレゼンに、玄関からリビングまでのウォークスルー動画を1本足せます。商業施設のコンペでは、平面図と外観パースに加えて、エントランスから店舗内部を歩く30秒動画が標準装備になりつつあります。Cyclesでこれを出そうとすると現実的な時間に収まりませんが、Eevee Next なら1晩で出せる長さです。

Blender 4.5 LTS 以降は、Shadow Terminator Bias や大光源からの光漏れ改善で、これまで「Eevee は内観の最終品質ではちょっと無理」とされていた部分も実用域に近づいています。Light Probe Volume をベイクし、Raytracing Diffuse を有効化し、Light Probe Plane で床反射を補強する という三層構成を整えたとき、内観の最終出力も Cycles と Eevee Next で迷う水準まで来ます。

Eevee Next を整えた先には、「最終出力はCycles、それ以外はEevee Next」という固い分担から、「用途とクライアント要件に応じて選ぶ」という柔軟さが手に入ります。建築archviz実務でこれまで「待ち時間」だった工程が、「提案の幅を広げる時間」に変わっていきます。

まとめ

Blender Eevee Next は Legacy の単なる強化版ではなく、Blender 4.2 LTS で全面再設計され、4.5 LTS(現行LTS/2025年7月リリース)でさらに品質が上がった別物のレンダラーです。建築archviz実務の基準にすべきバージョンは Blender 4.5 LTS、最新の機能を試したい場合は Blender 5.1 という二段構えになります。

要点は5つです。

  • Eevee Next は Legacy と別物。シャドウ(Virtual Shadow Maps)・間接光(二系統GI)・ライト上限(4,096灯)の3点で土台から作り直されています
  • 新機能5選(Virtual Shadow Maps / Raytraced Reflections / Raytraced Transmission / GI二系統 / HDRI自動太陽抽出)で、建築archvizの中間確認・プレゼン・アニメーション用途が実用域に入りました
  • Cycles との使い分けの基本は、中間確認・プレゼン・ウォークスルーは Eevee Next、フォトリアル最終静止画は Cycles という分担です
  • 建築内観でCyclesに寄せたいときは、Light Probe Volume(ベイク)+ Raytracing Diffuse(リアルタイム)+ Light Probe Plane(床・大判ガラス反射) の三層構成が定番パターンになります
  • Blender 4.5 LTS 以降は Shadow Terminator Bias で自己シャドウ問題が改善し、Vulkan バックエンドとシェーダ並列コンパイルでビューポート操作も高速化しました

「Eevee Next の設定がわからずCyclesに逃げ続けている」状態から、用途で使い分けられる状態に進めれば、建築archviz の制作時間と提案の幅は確実に変わります。

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最初の一枚を完成させる。

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Blenderの導入から基本操作、
そして建築パースを1作品完成させるところまで。
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3 LESSONS


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基礎編② 画面構成と基本的な操作方法

未経験でも迷わない画面の見方と操作の基本

実践編① 太陽光の入る白い部屋

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