
断面パースとは?構造と空間の関係を見える化する建築3DCG表現
建物の構造や空間のつながりを、ひと目でわかる形で伝えたい──そんなニーズに応えるのが「断面パース」です。設計意図や空間の工夫を、視覚的に直感で伝えられるこの手法は、図面や模型では伝えきれない“空間の体験”を補完します。
この記事では、断面パースの定義や役割から、制作時に意識すべきポイント、具体的なツールや作り方までを、建築3DCGのプロ視点で体系的に解説しています。設計・プレゼン・教育のどれに使う場合でも、断面パースの本質と実践方法がわかれば、情報伝達の質が格段に高まります。読後には、あなた自身のプロジェクトでもすぐに活かせる知識が手に入るはずです。
断面パースとは?図面との違いと役割をわかりやすく解説
断面パースは、建物を切断して内部の構造や空間の関係性を視覚的に伝える建築3DCG表現です。図面では伝わりにくい奥行きや空気感を補完し、設計の意図や空間の使われ方をわかりやすく伝えるのに役立ちます。この章では、断面パースの基本的な定義と、平面図・断面図といった従来の図面との違いを整理しながら、役割を明確にしていきます。
断面パースの定義と目的
断面パースとは、建築物を一部断ち切った状態で表現するCGパースです。建物内部の構造や空間の関係性を立体的に示すことで、設計意図や構成の理解を深める目的があります。特に複雑な空間構成や機能の重なりを視覚的に把握したい場面で効果を発揮します。
たとえば、多層階にまたがる吹き抜けや、構造体と設備の取り合いが複雑なプランでは、平面図や断面図では理解しにくい情報を、断面パースなら一目で伝えることができます。設計者・施工者・施主といった異なる立場の人々が、共通のイメージを持つための橋渡しとなる表現手法です。
要は、断面パースは「設計の意図を立体的に共有するための可視化ツール」として活用されるのが基本です。
図面では伝わらない“空間の奥行き”を可視化する力
2Dの図面では、奥行きや高さ方向の空間的な広がりを正確に把握するのが難しい場面があります。断面パースはそこを補い、立体的な空間の見え方やスケール感を具体的に伝えるのが得意です。
たとえば、階段や吹き抜けを含むリビング空間を断面で切ることで、「どこから光が入り、どのように抜けるのか」「上下階のつながりがどう見えるか」などを直感的に理解できます。視点の高さやカメラの角度も調整できるため、施主目線・鳥瞰など、伝えたい立場に応じた見せ方が可能です。
つまり、空間の魅力や設計の工夫を“視覚的に体験できる”のが断面パースの強みです。
設計・施工・プレゼンで活用される代表的な場面
断面パースは、以下のような場面で活用されます。
- 施主へのプレゼンテーション:設計意図や空間の広がりを感覚的に伝え、合意形成をスムーズに進められます。
- 構造や設備の検討:梁や配管の位置関係を立体で確認し、設計ミスや干渉の防止につながります。
- 建築教育・研究:学生や一般向けの教材として、構造・機能・空間の関係を可視化できます。
実務でも、初期段階のコンセプト提案から詳細設計、施工図作成まで、さまざまなフェーズで使われています。BIMモデルと連携すれば、設計変更にも柔軟に対応可能です。
断面パースで表現すべき3つの要素
効果的な断面パースを作るには、「構造」「空間」「光」の3つの視点をバランスよく押さえることが欠かせません。単に断面を切るだけでは伝わらない、建築の意図や魅力を補足する要素があるからです。この章では、断面パースで表現すべき3つの要素を具体的に解説します。
構造体と仕上げ材の関係を正確に描く
断面パースでは、梁・柱・床・壁などの構造体と、それを覆う仕上げ材との関係を正確に表現することが求められます。これにより、構造の合理性や施工上の配慮が視覚的に伝わりやすくなります。
たとえば、RC構造の梁と天井仕上げの取り合いを正しく描けば、天井高さや照明設置スペースが明確になり、設計者・施工者・施主間の認識齟齬を防げます。また、断熱層や遮音材などの中間層も描くことで、性能への配慮も可視化できます。
つまり、単なる「見た目」ではなく、設計の技術的な裏付けまで表現するのが断面パースの役割です。
空間の連続性と動線を見せる
建物の魅力は、部屋単体ではなく、空間同士のつながりや動線の流れに表れます。断面パースでは、階段・吹き抜け・廊下・開口部などの配置を立体的に見せることで、空間の連続性を表現できます。
たとえば、玄関からLDK、さらに吹き抜け越しの2階ホールまで一続きの視線を断面で描けば、設計意図や動線設計が直感的に理解できます。天井高の違いやレベル差も強調できるので、空間体験の質を具体的に伝えられます。
結果として、空間設計の「流れ」を理解しやすくなる点が、2D図面との大きな違いです。
光・素材感で空間のリアリティを演出する
リアルな断面パースを作るには、光の表現と素材の質感設定も重要です。HDRI(高ダイナミックレンジ画像)を用いた自然光シミュレーションや、PBR(物理ベースレンダリング)で素材感を忠実に再現することで、空間のリアリティが格段に高まります。
たとえば、南面の大開口から入る自然光が吹き抜けに回り込み、素材の影と反射が床面に出るような表現を加えると、空間の印象が一気にリアルになります。さらに、マテリアルのラフネスや反射率を調整することで、素材ごとの質感差も明確に伝えられます。
見た目の美しさだけでなく、「その空間にいる感じ」が伝わる表現が、信頼性のある断面パースに直結します。
断面パース制作に使えるおすすめツール
断面パースの品質と効率は、使用するツールに大きく左右されます。用途やスキルレベルに応じて、モデリングからレンダリング、仕上げまで最適なツールを選ぶことが重要です。この章では、建築業界でよく使われている代表的なツールと、それぞれの特徴を紹介します。
Revit・SketchUpなどの建築向け3Dモデリングソフト
建築設計と親和性の高いモデリングソフトとして、RevitやSketchUpが広く使われています。これらのソフトは設計図面と連携しやすく、建物全体を構造的に立体化できる点が強みです。
RevitはBIM(Building Information Modeling)に対応しており、構造・設備・仕上げまで一括で管理できます。断面ビューも自動で生成できるため、設計変更にも柔軟に対応できます。一方、SketchUpは操作が直感的で、スピーディなモデリングが可能です。プラグインを使えば、断面表現も柔軟にカスタマイズできます。
設計者が自らパース制作まで進めたい場合、まずはこの2つから検討するとスムーズです。
Blender(無料で高品質な3Dモデリング・レンダリング)
Blenderは、無料で使えるオープンソースの3Dソフトながら、高品質な断面パース制作が可能です。建築用ではありませんが、豊富なアドオンとカスタマイズ性の高さから、個人制作者やCGプロダクションでも採用されています。
特にCycles(物理ベースレンダラー)によるPBR表現が強力で、構造や素材の質感をリアルに再現できます。断面カットは「Boolean」や「Clipping」機能で制御でき、複雑なカットも自在に作れます。
操作に慣れるまでやや学習コストはかかりますが、独学でもプロ品質を目指せる点が魅力です。
Lumion・Twinmotionなどのリアルタイムレンダリングツール
リアルタイムでのレンダリングやアニメーションが必要な場合は、LumionやTwinmotionが有力です。これらは断面モデルをインポートし、短時間で高品質なビジュアライズが可能なツールです。
たとえば、建物断面に太陽光が時間とともにどのように入るかをシミュレーションすることで、設計意図の説得力が増します。アニメーション出力やウォークスルーも簡単にできるため、クライアント向けの説明やプロモーション資料としても活用できます。
RevitやSketchUpとの連携も強く、モデルの受け渡しもスムーズに行えます。
Photoshopなどの仕上げ編集ツール
最終仕上げとして、PhotoshopやAffinity Photoなどの画像編集ツールを併用するケースも多いです。レンダリング後の色調補正や注釈追加、背景処理などに適しています。
たとえば、人物シルエットや家具を後から合成することで、空間のスケール感や生活感を強調できます。断面部分に色分けやテクスチャを追加するなど、伝えたい情報に合わせて調整が可能です。
ツールごとの役割を整理して使い分けることで、効率よく伝わる断面パースを作れます。
断面パースの作り方|初心者でも流れがわかる3ステップ
断面パースは、基本的な流れを押さえれば初心者でも実践できます。重要なのは、準備・モデリング・レンダリングの各ステップで何を重視すべきかを理解しておくことです。この章では、断面パース制作の基本的な3ステップを順に解説します。
① 図面・モデルデータを準備する
まず最初に行うのは、建物の設計情報を正しく読み取り、モデリングに必要な素材をそろえる工程です。主に使用するのは平面図・立面図・断面図で、それらから寸法・構造・開口部の位置などを整理します。
図面が紙ベースの場合は、スキャンしてCAD化するか、画像として下絵に使います。すでにBIMデータ(Revitなど)がある場合は、そのまま3Dに展開しやすく効率的です。SketchUpやBlenderで制作する場合も、レイヤー構成を整理しておくと後の作業がスムーズになります。
この段階で構造要素と仕上げ要素を分けておくと、後の断面設定やレンダリング時の編集が楽になります。
② モデリングとカット表現を設定する
モデリングでは、準備した図面を元に、壁・床・柱・梁などの構造を正確に立体化していきます。吹き抜けや階段、開口部など、空間の抜け感やつながりを意識しながら作ることがポイントです。
断面表現には、以下のような手法があります。
- SketchUp:セクションツール(Section Plane)でカット面を設定
- Blender:BooleanモディファイアやClippingを使用
- Revit:ビュー設定で断面ビューを自動生成
カット位置は、見せたい空間の構成や動線が伝わる位置を選びます。無理に1カットで全体を見せようとせず、必要に応じて複数の断面を使い分けるのも有効です。
③ 光・レンダリングでリアルに仕上げる
モデリングが終わったら、ライティングとマテリアルを調整し、最終的な見た目を仕上げます。自然光はHDRIを使うとリアルな光環境が得られます。室内の光はIESデータを使うと、実際の照明器具に近い光の広がりを再現できます。
たとえば、BlenderのCyclesエンジンでレンダリングする場合、以下のような設定が基本です。
- サンプル数:64〜128(テスト)、最終出力は512〜1024程度
- ラフネス・メタリック:PBRマテリアルで素材ごとに設定
- デノイズ:ON(パフォーマンスと品質のバランスを見ながら)
レンダリング後は、Photoshopなどでトーン調整や注釈追加を行うと、伝わりやすいビジュアルになります。
伝わる断面パースを作るコツ
効果的な断面パースは、単にきれいな見た目だけでなく「何を伝えるか」が明確であることが重要です。特に、構造・空間・スケールを直感的に理解させる工夫がポイントになります。この章では、伝わる断面パースを作るための3つの具体的な工夫を紹介します。
カットラインの位置と角度を工夫する
断面パースの情報量と伝達力は、カットラインの「位置」と「角度」で大きく変わります。重要なのは、建物全体を見せるのではなく、「何を伝えたいか」に合わせて最適な断面を選ぶことです。
たとえば、LDKと2階の吹き抜けの関係を見せたい場合、リビング中央を通る断面に設定すれば、上下階の視線のつながりや光の入り方が明確になります。一方、構造や配管の取り合いを伝えたいときは、柱や梁の交点を通る断面が有効です。
角度を斜めに振る“ダイアゴナル断面”も有効で、奥行き感や広がりを見せたいときに活躍します。ただし、情報が多くなりすぎないよう、主目的に絞って構図を決めるのがポイントです。
色とマテリアルで構造を区別する
視認性を高めるには、構造体と仕上げ材、家具や設備などを明確に区別して描く必要があります。特に色とマテリアルの使い分けは、断面パースの読みやすさに直結します。
たとえば、以下のように分類すると伝わりやすくなります。
- 構造体(梁・柱・床):グレー系のマット素材
- 仕上げ材(壁紙・床材):実素材に近いPBRマテリアル
- 家具・設備:少し明るめ+反射を抑えた質感
- 断面面:カラーマスクで塗り分ける(赤系や青系など)
Blenderなら「マテリアルIDパス」を活用して、Photoshopで後処理しやすい状態に整えることも可能です。色を整理するだけで、パースの情報伝達力は一段と高まります。
人物や家具を配置してスケール感を出す
空間の広さや高さは、数値ではなく「比較対象」があることで実感できます。断面パースに人物や家具を配置すると、ユーザーは空間のスケール感を直感的に把握しやすくなります。
たとえば、天井高2.6mのリビングに身長170cmの人物モデルを立たせると、「どのくらいの高さ感があるか」がすぐにわかります。ダイニングテーブルやソファも配置すれば、生活シーンがイメージしやすくなり、より共感を得られます。
ただし、要素を入れすぎると主題がぼやけるため、必要最小限に留め、配置の意図を明確にすることが重要です。
断面パースの活用事例と効果
断面パースは、実際の設計業務やプレゼンテーション、建築教育の現場で幅広く活用されています。単なるビジュアル表現にとどまらず、構造理解や合意形成の促進、教材としての機能など、実務に直結する多くの効果があります。この章では、具体的な活用シーンとその効果を紹介します。
設計者間の共有とミス防止
断面パースは、設計チーム内での情報共有にも効果的です。特に構造・設備・内装の取り合いが複雑な案件では、平面図や断面図だけでは認識のずれが生じやすく、施工時のミスにつながることがあります。
たとえば、梁と配管の干渉リスクを早期に発見するには、3D断面で構造と設備の位置関係を確認するのが有効です。BIMモデルと連携すれば、断面パースを通じて問題箇所の可視化と修正判断がスムーズに行えます。
結果として、後工程での手戻りが減り、設計精度と効率が大幅に向上します。
施主・クライアントへの提案説明
施主やクライアントに対して設計内容を説明する際にも、断面パースは非常に役立ちます。空間の広がりや高さ、光の入り方など、図面ではイメージしづらい情報を直感的に伝えられるからです。
たとえば、吹き抜けや勾配天井のあるリビング空間を断面で見せれば、「ここが開放感のある場所です」と口頭で説明するよりもはるかに伝わりやすくなります。家具配置や人物モデルも加えることで、生活シーンの具体的な想像が可能になります。
視覚情報による納得感が高まるため、合意形成がスムーズに進みやすいのがメリットです。
建築教育・研究での可視化教材としての活用
建築系の教育現場では、断面パースが空間理解や構造把握の教材として活用されています。特に建築を学び始めた学生にとって、2D図面だけではイメージしづらい部分を補完する役割を果たします。
たとえば、構造フレームと空間構成の関係性を断面で示せば、「この梁がどの空間を支えているのか」「天井高がどう変化しているか」といったことが視覚的に理解できます。研究用途でも、都市空間の断面分析や建築史的な構成解析に応用できます。
教育・研究を問わず、視覚による理解の補助ツールとして非常に効果的です。
よくある質問(FAQ)
断面パースに関心を持った方からは、「図面との違いは?」「どうすればリアルに見せられる?」といった基本的な疑問が多く寄せられます。この章では、制作前に押さえておきたいよくある質問とその答えをまとめて解説します。
Q1.断面パースと断面図の違いは?
断面図は、建築設計の中で構造や寸法を正確に示す「図面」であり、情報の整理や施工指示に使われます。一方、断面パースは建物内部の構造と空間を立体的に可視化する「ビジュアル表現」であり、視覚的な理解や説明に適しています。
たとえば、断面図では線や寸法で構成されますが、断面パースでは素材感・光の入り方・空間の奥行きが表現され、感覚的に「空間体験」が伝わります。用途は異なりますが、目的に応じて使い分けることで設計や説明の精度が高まります。
Q2.外観パース・内観パースとの違いは?
外観パースは建物の外側のデザインや形状を伝えるもので、主に街並みやファサードの印象を示すのに使われます。内観パースは室内のデザインやインテリアを見せるのが目的です。
それに対して断面パースは、建物を断ち切って内部構造や空間のつながりを同時に示すものです。空間全体の構成や動線、上下階の関係を一目で把握できるため、設計意図の説明や構造理解に適しています。
つまり、断面パースは「外」と「内」の両方を貫いて、空間の仕組みそのものを見せる表現です。
Q3.断面パースをリアルに見せるコツは?
リアルな断面パースを作るには、以下の3点が重要です。
- 光の設定:HDRIやIESを使って、自然光・人工光をリアルに再現する
- 素材の質感調整:PBRマテリアルで粗さ・反射率を調整し、素材らしさを出す
- カメラ設定:適切な視点・焦点距離で、空間の奥行きとスケール感を保つ
たとえば、BlenderのCyclesでHDRIライティング+中程度の粗さ(Roughness 0.3〜0.5)を設定すると、自然な空間表現がしやすくなります。細部の調整と仕上げのひと手間で、見た目の説得力が大きく変わります。
Q.4制作費用や納期の目安は?
断面パースの制作費用は、内容の複雑さと仕上げのクオリティによって幅があります。一般的には、1点あたり3〜8万円程度が目安です。
- シンプルな住宅断面(モデリング済み)なら:約3万円〜
- 複雑な構造+高品質レンダリングなら:6〜8万円以上
納期は、モデルがあるかゼロから作るかによって変わりますが、2〜7営業日が標準的です。急ぎ対応やアニメーション付きは、別途相談になることが多いです。
事前に「どの範囲を見せたいか」「どの程度のリアリティが必要か」を明確にすると、見積もりもスムーズに進みます。
