
ランドスケープパースとは?外構・植栽・街並みを伝える建築表現
ランドスケープパースは、建築物の外観だけでは伝えきれない「環境との調和」や「空間のつながり」を視覚化できる表現技法です。建物周辺の外構・植栽・街並みをリアルに描くことで、設計意図だけでなく、使われ方や居心地といった感覚的な価値まで伝えることができます。
本記事では、ランドスケープパースの定義や外観パースとの違いから、表現に欠かせない3つの要素、制作のステップ、リアルに見せるためのコツ、使用ツール、活用事例、よくある質問までを体系的に整理しました。まちづくり・景観計画・施主提案・広告表現など、幅広い場面で使えるこの技法を、実務レベルで活用するための参考にしてください。
ランドスケープパースとは?外観パースとの違いと役割をわかりやすく解説
ランドスケープパースは、建物単体ではなく、その周囲に広がる外構・植栽・街並みを含めて空間全体を描くビジュアライゼーション技法です。建築パースの一種ですが、設計意図だけでなく環境との調和や空間の使われ方まで視覚的に伝える点で重要な役割を果たします。この章では、外観パースとの違いや、ランドスケープパースが求められる場面を具体的に整理します。
ランドスケープパースの定義と目的
ランドスケープパースは、建物周辺の屋外空間を対象とする建築ビジュアライゼーション手法です。対象には外構(舗装・階段・フェンスなど)や植栽、街並み、さらには人や車の動きなども含まれ、空間のつながりや環境との関係性を伝えることが目的です。
設計図や断面図では伝わりにくい「空間の雰囲気」や「使われ方」を、視覚的な完成イメージとして描けるため、設計者・施主・行政・住民など多様な関係者にとって、共通の認識形成に役立ちます。
特に都市計画や景観設計では、「完成後の空間の質」を判断するための材料として重宝され、単なる図面の説明を超えた説得力を持つ資料になります。
外観パースでは伝わらない「環境と調和」を描く力
外観パースは主に建物そのもののデザインを伝えることに特化していますが、ランドスケープパースは空間の文脈や自然とのつながりまで表現するのが特徴です。地形の起伏、緑の配置、人々の動線、さらには時間帯ごとの光の変化など、建物が「どう環境に溶け込むか」を描ける点が大きな違いです。
たとえば、集合住宅のエントランスまわりを描く際、花壇の配置やアプローチの広さ、夕方の帰宅時間帯に差し込む光まで表現することで、実際の生活風景を想起させるリアリティが生まれます。
このように、環境と建築をつなぐビジュアルは、「住み心地」「居場所感」など、言葉にしにくい感覚まで伝える手段になります。
まちづくり・景観計画での活用シーン
ランドスケープパースは、まちづくりや景観計画といった広域の設計プロセスでも多く使われています。特に以下のようなケースで有効です。
- 公園や広場など公共空間の設計
- 複数棟の配置が関わる集合住宅や団地計画
- 駅前や商業エリアの再開発プロジェクト
- 歴史的建築物周辺の景観整備計画
これらのプロジェクトでは、建物だけでなく周囲の植栽・舗装・家具・照明・動線・人の流れまで多要素を統合する必要があるため、全体像を直感的に理解できるパースが重宝されます。
行政や住民との合意形成、設計の方向性確認、プレゼン資料など、あらゆる段階での意思疎通に効果を発揮します。
ランドスケープパースで表現すべき3つの要素
屋外空間を魅力的に見せるランドスケープパースでは、何をどう描くかが印象を大きく左右します。なかでも重要なのが「外構」「植栽」「街並みや背景」の3つの要素です。この章では、それぞれのポイントや表現の工夫について、実務目線で解説します。
外構デザインと動線計画をリアルに表す
外構はランドスケープパースの骨格を作る要素であり、動線計画と合わせて設計意図を具体的に伝える役割を持ちます。舗装材の種類や模様、階段の高さ、手すりやフェンスの素材など、細部まで忠実に描くことで、空間の機能性や安全性が視覚的に伝わります。
たとえば、集合住宅の中庭では、車椅子対応のスロープや視認性の高いサイン計画などを描写すると、ユニバーサルデザインへの配慮も訴求できます。動線に沿って配置された植栽や照明も合わせて描くと、使い勝手の良さをより具体的に表現できます。
視点としては、利用者の目線や鳥瞰視点を使い分けることで、歩行者の動きや空間の連続性が伝わりやすくなります。
採用植栽の種類・季節感・ボリュームで印象を整える
植栽はランドスケープパースに自然らしさと豊かさを加える重要な要素です。単に「緑」を置くのではなく、樹種・花の色味・密度・高さのバランスを意識することで、空間の印象が大きく変わります。
季節感を出すには、桜・紅葉・落葉樹などの表現が有効です。春の新緑、秋の紅葉など、色の変化で情緒を演出できます。また、常緑樹と落葉樹を組み合わせることで、季節が変わっても見栄えを保つ工夫も可能です。
ボリューム感については、建物とのスケール感を考慮し、パース全体にリズムを作るように配置すると、自然で立体的な構成になります。
街並み・背景とのスケール感を演出する
パースの説得力を高めるには、建物単体だけでなく、街並みや背景とのスケール感を丁寧に演出することが欠かせません。周辺建物、電柱、標識、道路の幅員など、都市的な要素も含めて描くと、現実感がぐっと増します。
特に遠景の処理では、空気遠近法や彩度を落とす手法を使い、パースに奥行きを加えるのがポイントです。たとえば、高層ビルが背景にある計画なら、濃淡やシャドウで距離感を表現し、主役となる空間を引き立てます。
また、空や山並みなど、自然の背景も場面に応じて使い分けることで、空間の広がりや立地の個性を強調できます。
ランドスケープパースの作り方|初心者でも流れがわかる3ステップ
ランドスケープパースを作るには、空間構成を整理し、3D化しながらリアリティを加えていくのが基本の流れです。初心者でも取り組みやすいように、「図面整理→3Dモデリング→演出調整」の3ステップで解説します。
① 図面・配置計画・植栽計画を整理する
まずは、設計図や配置図、植栽図などの元資料を整理し、描くべき空間の構成を把握します。この段階では、建物・歩道・車路・広場・植栽・家具など、要素ごとの位置関係を正確に読み取ることが重要です。
CAD図面をベースにして、2D上で動線やレベル差をチェックすると、立体化したときの破綻を防げます。また、植栽配置図がある場合は、樹種やサイズの情報も読み取り、あとで質感設定に活かせるよう準備します。
この作業を丁寧に行うことで、後の工程で「描くべきもの/省略してもよいもの」の判断がしやすくなり、効率的な制作につながります。
② 3Dモデリングとマテリアル設定で質感を出す
次に、整理した図面をもとに3Dモデリングを行います。SketchUpやRevitなどのモデラーを使って、建物・地形・外構・植栽などの要素を立体化します。
素材感を伝えるには、PBR(物理ベースレンダリング)に対応したマテリアル設定が効果的です。たとえば、舗装ならザラつきのある反射、木製ベンチならざらつきとツヤの組み合わせなど、細部まで質感を調整します。
植栽は3Dライブラリから樹種を選び、高さや密度を設計意図に合わせて調整します。種類が多すぎると画面が散らかるため、3〜5種類程度で構成するとまとまりやすくなります。
③ 光・天候・人・車の配置でリアリティを高める
最後に、空間の「らしさ」を高める演出を加えます。光源の設定にはHDRI(高ダイナミックレンジ画像)を用いると、自然な太陽光と空気感を再現しやすくなります。時間帯や季節によって光の色温度を変えると、表情に幅が出ます。
人物や車の配置は、動線や空間のスケール感を伝えるために効果的です。行き交う人やベンチに座る人を配置することで、生活の気配や賑わいを演出できます。小物(ゴミ箱・案内板・自転車など)を適度に加えると、空間が引き締まります。
レンダリング後はPhotoshopなどで色調補正・ノイズ除去・エフェクト追加を行い、最終仕上げに入ります。
リアルに見せるランドスケープパースのコツ
見栄えのいいパースでも、どこか不自然に見えると説得力が落ちてしまいます。ここでは、自然な奥行きや空間の流れを表現するためのテクニックとして、「アングル」「季節と時間の設定」「光と影」の3つの工夫を紹介します。
視線誘導を意識したカメラアングル設定
パースで空間の広がりや奥行きを伝えるには、アングル設定が重要です。視線の流れを計算し、見る人が自然に注目すべきポイントへ目を向けるような構図を意識しましょう。
たとえば、建物から道が斜めに伸びていく構図や、植栽の列が遠景へ導くような配置は、奥行きと動線を強調できます。人物を配置する際は、背中側から歩いているポーズを使うと、自然に視線が奥へと誘導されます。
また、広角レンズ風の画角(28mm〜35mm程度)を使うことで、空間のボリュームを強調できますが、パースの歪みが強くなりすぎないよう注意が必要です。
時間帯・季節設定で雰囲気を演出する
パースに感情的な印象や目的に応じた雰囲気を与えるには、時間帯と季節の設定が効果的です。朝・昼・夕方・夜それぞれで光の色温度や影の長さが変わり、見る人の印象も大きく変わります。
たとえば、夕方のゴールデンタイム(17:00〜18:30)は、柔らかいオレンジ系の光で温かみを演出でき、住宅や公園のパースに向いています。一方、商業施設や駅前などでは、夜のライトアップを使った表現が適しています。
季節設定では、春の花や秋の紅葉など、色味に変化をつけると印象に深みが出ます。背景の空も、晴天・曇天・夕焼けなどのHDRIを使い分けると効果的です。
光・影・水面の反射で自然らしさを加える
リアルさを追求するなら、光と影、そして反射表現は避けて通れません。特に水面やガラス、石材の床などには反射が入りやすいため、正確に表現することで立体感が増します。
たとえば、水盤のある中庭では、建物や空の映り込みを調整しながらレンダリングを行うことで、視覚的な奥行きと静けさを同時に演出できます。また、影の落ち方や濃淡にも注意が必要で、オブジェクト同士の距離や形状によって影の質感を細かく調整するとリアリティが高まります。
なお、植栽の葉の裏側や軒下など、通常見落としがちな影も丁寧に描写すると、空間の一体感が出やすくなります。
ランドスケープパース制作に使えるおすすめツール
ランドスケープパースの制作には、モデリング・レンダリング・仕上げといった各工程に適したツールを使い分けるのがポイントです。この章では、実務でよく使われる代表的なソフトを、用途やスキル別に整理して紹介します。
SketchUp・Revitなどの建築モデリングツール
ランドスケープパースの3Dモデリングには、建築業界で広く使われているSketchUpやRevitが適しています。どちらも図面との連携がしやすく、設計の初期段階から空間構成を可視化できます。
SketchUpは直感的な操作で手早く形を作れるため、外構や街並みのラフモデルを作るのに向いています。一方でRevitはBIM(Building Information Modeling)に対応しており、建築・構造・設備との統合が必要な案件で力を発揮します。
外構や植栽のコンポーネントも豊富に揃っているため、作業時間を短縮できるのも利点です。
Lumion・Twinmotionなどのリアルタイムレンダリング
作成した3Dモデルをリアルに見せるには、リアルタイムレンダリングソフトが有効です。中でもLumionとTwinmotionは、レンダリング速度が速く、直感的に空や光、植栽の動きなどを調整できます。
たとえば、Lumionでは天候や時間帯、風による樹木の揺れなどをリアルに再現でき、動画出力もスムーズです。Twinmotionも操作性に優れ、Unreal Engineベースの表現力があり、特にプレゼン資料やウォークスルー動画に向いています。
どちらもリアルタイムプレビューで結果が確認できるため、施主との打ち合わせでも活用しやすい点が魅力です。
Blender(無料で高品質な3Dパース制作)
コストを抑えつつ高品質なランドスケープパースを作りたい場合は、Blenderがおすすめです。オープンソースで機能が豊富なうえ、PBRマテリアルやHDRIによる光表現など、フォトリアルな仕上がりにも対応できます。
特に近年のアップデートでUIが洗練され、建築ビジュアライゼーションへの活用も広がっています。アドオンを導入すれば、樹木や人などのオブジェクトを簡単に追加できるのも強みです。
無料ツールとは思えない表現力があり、個人事務所や学生でも導入しやすいのが魅力です。
Photoshopなどの仕上げ・合成ソフト
最終的な印象を整えるためには、仕上げ用の画像編集ソフトも欠かせません。なかでもPhotoshopは業界標準ツールとして広く使われ、色調整・人物合成・エフェクト追加など、細かい調整に最適です。
たとえば、レンダリングで出しきれなかった空の色味や、人物の自然な影、光の滲みなどを後処理で加えることで、より印象的なパースに仕上げられます。
ノイズ除去や構図の微調整にも活用でき、最終的なクオリティを一段引き上げる工程として活躍します。
ランドスケープパースの活用事例と効果
ランドスケープパースは、施主との打ち合わせからまちづくりまで、さまざまな場面で使われています。ここでは実務における代表的な活用事例と、それぞれの場面でどのような効果を発揮するのかを紹介します。
施主提案・プレゼンでの理解促進
施主やクライアントに対する設計提案では、完成イメージを具体的に伝えることが重要です。図面や言葉だけでは伝えきれない外構や植栽の雰囲気も、ランドスケープパースを使えば一目で伝えることができます。
たとえば、集合住宅のエントランス計画では、舗装材の質感や樹木の種類、ベンチの配置などをリアルに描写することで、空間の使い方や居心地を直感的に共有できます。これにより、設計の意図や魅力が正確に伝わり、意思決定がスムーズになります。
プレゼン用の資料としても、紙面やスライドに挿入することで視覚的な説得力が格段に向上します。
景観計画・まちづくり事業での共有資料
自治体や地域住民との合意形成を進める上でも、ランドスケープパースは重要な資料となります。特に広域な景観整備や再開発事業など、複数の関係者が関わるプロジェクトでは、完成後のイメージを共有することが前提となるからです。
たとえば、公園整備の計画では、遊具・広場・植栽・歩道などを一体で描くことで、子育て世帯や高齢者など利用者の視点に立った議論が進めやすくなります。
行政の内部資料としてだけでなく、説明会やパブリックコメントの場でも、視覚的な補助として効果的です。
不動産広告・公共施設計画での印象訴求
分譲住宅や商業施設などの販売・広報活動においても、ランドスケープパースは印象訴求に活用されます。写真ではまだ存在しない空間も、リアルなパースを使えば魅力的に伝えることができ、問い合わせや集客にもつながります。
たとえば、住宅街の広告チラシに街並み全体を描いたパースを掲載することで、静かで安全な暮らしを印象づけることが可能です。公共施設では、周囲の公園やバリアフリー動線まで含めた表現を行うことで、利便性や地域性を訴求できます。
これらのビジュアルは、SNSやWebページでも展開しやすく、プロモーション全体の効果を底上げします。
よくある質問(FAQ)
ランドスケープパースに初めて取り組む方や、発注を検討している方からよく寄せられる疑問をまとめました。表現の違いや制作方法、費用感まで、実務に役立つ視点でわかりやすく解説します。
Q1.ランドスケープパースと外観パースの違いは?
外観パースは主に建物そのものの外観デザインを伝えるもので、ファサードや素材感に焦点を当てた表現が中心です。一方でランドスケープパースは、建物の周囲に広がる外構・植栽・街並みといった屋外空間を含めた環境全体を描くことが目的です。
たとえば、外観パースでは建物のディテールを強調しますが、ランドスケープパースではアプローチや広場、人の動き、光の変化など「空間のつながり」に重点を置きます。用途や伝えたい内容に応じて、両者を使い分けるのが一般的です。
Q2.植栽のリアルさを出すにはどうすればいい?
リアルな植栽表現には、以下の3点が特に重要です。
- 樹種の選定:設計意図や地域性に合った植物を選ぶ
- スケール感の調整:建物や人物との相対比を意識する
- 光と影の調整:葉の密度や光の透過表現に注意を払う
レンダリング時には、植栽専用の高精度モデルやライブラリを使うとリアリティが格段に向上します。さらに、HDRIを使って自然光を再現すれば、葉の影や風に揺れる雰囲気まで演出できます。
Q3.手描きとCG、どちらが向いている?
表現の目的によって適切な手法は異なります。
- 手描き:コンセプトや空気感を重視した初期提案に向く
- CG:ディテールや精度、再現性が求められる実施段階に向く
たとえば、行政の景観検討で印象を柔らかく伝えたい場合は手描きが適しています。一方で、不動産広告やプレゼン資料などでリアルな完成イメージが必要な場合は、CGパースが有効です。プロジェクトのフェーズに応じて使い分けると効果的です。
Q4.制作費用の目安は?
ランドスケープパースの制作費は、内容や仕上げ方法によって異なりますが、一般的には以下が目安です。
- シンプルな静止画パース:3〜7万円
- ディテールが多い高精度パース:8〜15万円
- アニメーションや動画パース:15万円以上
価格は「スケール」「視点数」「植栽の量」「仕上げレベル」などによって変動します。早期に用途と希望表現を整理しておくと、見積もりもスムーズに進みます。
