
AI時代の建築パース|生成技術が建築表現をどう変えるのか
建築パースの世界に、生成AIという革新が急速に浸透しつつあります。手描きや3DCGによる表現が主流だった時代から、プロンプトによってイメージを生成する時代へと移行が進む中で、私たちは「建築表現とは何か」という本質的な問いと向き合う必要があります。
本記事では、生成AIがもたらす制作工程の変化、表現思想の転換、職能構造への影響、さらには倫理的・法的な課題までを多角的に掘り下げました。実務レベルでの具体例やツール比較を通じて、変化の現在地とこれから求められるスキルを提示しています。建築に携わるすべての人にとって、AI時代の表現力とは何かを再考するヒントになれば幸いです。
生成AIがもたらした建築パース制作のパラダイムシフト
生成AIの登場によって、建築パースの制作手法は根本から変わりつつあります。従来のレンダリングや手描きによる表現から、プロンプトによる指示で画像を生成する新しい制作様式が浸透し始めました。この変化は単なる技術的進歩にとどまらず、表現思想や職能構造にも大きな影響を与えています。
手描き・レンダリング・生成AIの比較と進化
建築パースの歴史は、手描きによるアナログな表現から始まり、CGレンダリング技術の発展を経て、現在の生成AIへと進化してきました。各フェーズにはそれぞれ独自の表現力と技術的ハードルがあり、制作者のスキルや思想にも影響を与えてきました。AIの登場は、表現の幅を広げると同時に、制作工程そのもののあり方を変えつつあります。
まず、手描きパースは空間感や人の温もりを伝える手段として長く支持されてきましたが、工数が多くスケールアップに課題がありました。次に普及したレンダリングは、フォトリアルな表現を可能にしつつ、建築設計データとの連携性を高めました。しかし高精度な表現には時間やマシンスペックが求められます。
これに対し、生成AIはプロンプト入力だけで短時間に高品質なイメージを出力でき、制作のハードルを一気に下げました。たとえば「都市型住宅の外観」「夕景」「北欧スタイル」などの指示で、数秒以内に複数案が提示されることも珍しくありません。
とはいえ、制御性やリアルさの方向性には課題も残ります。レンダリングがCAD/BIMとの連動を前提とするのに対し、生成AIは構造やスケールの整合性が保証されにくいため、あくまで初期イメージや提案段階での活用が主流です。
このように、表現手法は一方向に進化するのではなく、それぞれの特性に応じて使い分ける時代に入っています。AIがもたらす変化を正しく理解することで、表現の自由度と実務性を両立できるようになります。
手作業中心からプロンプト設計中心への変化
従来の建築パース制作は、モデリング・ライティング・マテリアル設定など、細部を手作業で積み上げる工程が中心でした。しかし生成AIの登場により、「どんな画像を出すか」を言語で指定する「プロンプト設計」が主軸となりつつあります。
プロンプト設計では、完成イメージを構成する要素――空間タイプ、時間帯、光の状態、マテリアル、スタイルなど――を的確に言語化する力が問われます。これは従来の「見せたい空間を構築する力」から「言語で空間を表現する力」への転換を意味します。
たとえば、光の方向性を「午前中の南東からの柔らかい自然光」と表現したり、マテリアルの質感を「少し粗めのRC打ち放し」などと具体的に指定することで、より意図に近い出力が得られます。
この変化は、技術的スキルから概念的スキルへの比重の移行を示しています。つまり、パース制作者は操作手順を覚えるだけでなく、「どのような空間が求められているか」を抽象的に設計し、それを言語に落とし込む力を求められるようになったのです。
今後は、言語表現と空間感覚の両方を兼ね備えた「プロンプトアーキテクト」のような役割が重要になっていくでしょう。
制作速度・コスト・品質構造の変化
生成AIを用いることで、パース制作の速度とコスト構造は大きく変化しました。従来の3DCG制作では、1枚のパースに数日〜1週間程度の作業時間が必要でしたが、AI生成では数分〜数時間で初期案を複数生成することが可能です。
たとえば、ある設計事務所では、従来のレンダリングに比べて制作コストを約70%削減しながら、プレゼン初期段階での案出しスピードを4倍に向上させた事例があります。これにより、設計者はより多くの案を試し、ブラッシュアップに集中できるようになりました。
ただし、高速化と低コスト化は万能ではありません。AI画像は実施設計レベルの精度を担保しにくく、細部の整合性や構造的正しさは人のチェックが不可欠です。また、建築的なリアリティや意図の伝達という観点では、用途に応じてAIと従来手法の使い分けが必要です。
このように、制作リソースの再配分によって、コストの最適化と品質確保のバランスを取ることが今後の重要な課題となります。
表現の多様化と「作風の曖昧化」問題
生成AIは誰でも高品質なイメージを出力できるため、表現の裾野を広げる一方で、「作風の均質化」という課題も浮上しています。特にMidjourneyやStable Diffusionは似た系統のビジュアルを生成しやすく、作品に「AIっぽさ」が残ることがあります。
その結果、「誰が作ったのか分からない」「どれも同じに見える」といった印象を与えてしまい、ブランド価値や作家性の明確化が難しくなる場面も出てきました。これは特に建築ビジュアライゼーションにおいて、プレゼンテーションの個性や設計意図を際立たせる上で問題となります。
これに対応するには、プロンプトの精度を高めるだけでなく、生成画像に独自の加工やコラージュ処理を加えるなど、ポストプロダクションでの編集力が重要です。たとえば、生成画像に実際の図面から起こした要素を合成することで、AI特有の曖昧さを補正し、リアリティと個性を両立させることができます。
表現の自由度が上がった分、制作者の「意図の明確化」と「手動による差別化」がより問われる時代になったと言えるでしょう。
建築ビジュアライゼーションにおけるAIツールの現在地
建築パース制作の現場では、MidjourneyやStable Diffusionといった生成AIツールが急速に導入されつつあります。これらのツールは、高精度かつ高速な画像生成を可能にし、設計検討やプレゼン資料の制作プロセスを大きく変え始めています。本章では、代表的なツールの違いや建築的なリアリティとの関係、実務導入事例などを通じて、AIツールの「現在地」を明らかにします。
Midjourney・DALL·E・Stable Diffusionの比較
建築分野でよく使われる生成AIツールには、Midjourney、DALL·E、Stable Diffusionの3つが挙げられます。それぞれに得意分野や生成品質、制御のしやすさといった違いがあり、用途に応じた選択が求められます。
Midjourneyは、特に印象的なビジュアルや雰囲気のある構図が得意で、プレゼン資料やコンセプトスケッチの作成に向いています。一方で構造的な整合性や建築スケールの精度には不安があり、実施図面との連携には向いていません。プロンプトによる制御もやや抽象的で、試行錯誤が前提になります。
DALL·EはOpenAI製で、制御性が比較的高く、画像の一部修正や領域指定(inpainting/outpainting)といった編集が可能です。デザインの細部を詰める場面や、クライアントとのすり合わせにおいて有効です。ただしMidjourneyほどのビジュアル力には欠けるケースもあります。
Stable Diffusionはオープンソースで、カスタムモデルの適用やローカル環境での実行が可能な点が強みです。特に建築用途に特化したLoRA(軽量学習)モデルやコントロールツール(ControlNet)を使うことで、より意図通りのアウトプットが得られます。開発的な知識があれば最も柔軟に使える選択肢です。
このように、ビジュアル重視ならMidjourney、精度重視ならDALL·E、自由度と拡張性を求めるならStable Diffusionという棲み分けが一般的です。案件の目的や求める精度に応じて、適切なツールを使い分けることが求められます。
写真リアルと建築的リアリティの違い
生成AIによって作られるパースは、しばしば「リアルで美しい」と評されますが、それが必ずしも建築的に正しいとは限りません。ここで重要なのが、「写真リアル」と「建築的リアリティ」の違いを理解することです。
写真リアルとは、表面の質感やライティング、カメラの焦点距離などが実写に近いビジュアルであることを指します。MidjourneyやStable Diffusionでは、特にこの点が高く評価されています。しかし、建築的リアリティは、空間スケール、構造合理性、動線計画、法規制への適合など、設計の現実性を含む表現です。
たとえば、生成AIによるパースでは、開口部の大きさが不自然だったり、家具配置が現実の寸法に合わないといった事例が多く見られます。これは視覚的には「映える」ものの、設計者やクライアントにとっては誤解を招く原因にもなりかねません。
このため、AIによるビジュアル提案は、あくまでアイデアスケッチや初期段階のイメージ共有として活用し、建築的な妥当性は別の手段で補完することが現実的です。リアリティの意味を文脈に応じて使い分ける意識が必要です。
BIM連携(Revit+AI)による自動生成事例
近年では、BIM(Building Information Modeling)と生成AIを組み合わせたワークフローが登場し始めています。たとえば、Revitで作成した3Dモデルから書き出した断面図や立面図をベースに、AIに自動でイメージを生成させる手法があります。
具体的には、Revitのビューポートからエクスポートした線画をControlNetに入力し、Stable Diffusionで着彩やマテリアル提案を行うといった方法が一般的です。これにより、設計の進行と並行して、短時間で雰囲気のあるイメージパースを複数生成できます。
このワークフローの利点は、設計者がBIMモデルを更新するたびに新しいパースが半自動で生成できる点にあります。提案資料や内部検討用のスケッチをスピーディに更新でき、クライアントとのフィードバックサイクルも短縮されます。
ただし、BIMとAIを連携させるには、ツール間のデータ変換や精度の調整が必要であり、一定の技術習熟が前提となります。現状では一部の先進事務所での試行段階ですが、今後の主流となる可能性は十分あります。
実務導入事例と成果物の精度
実際の建築実務でも、AIツールを活用した事例が徐々に増えてきました。特に設計初期のアイデア検討や、施主へのプレゼン資料としての利用が目立ちます。
たとえば、某ゼネコン系設計部では、コンセプトスタディ段階でMidjourneyを使い、意匠設計チームが1日で100枚以上のビジュアル案を生成し、社内の投票で案を絞り込む手法を採用しています。また、あるCG制作会社では、Stable Diffusionを活用して量産型の内観イメージを自動生成し、最終レンダリングの前段階で複数案を提示しています。
これらの成果物は、ファーストステップとしては十分な説得力を持ち、設計者やクライアントの意思決定を早める効果があります。一方で、最終的な図面やリアルな納品用レンダリングには、やはり手作業による仕上げや調整が不可欠です。
AIが出力した成果物の精度は日進月歩で向上していますが、建築的な正確性と意図伝達のバランスを取るには、人間の判断が不可欠である点は変わりません。実務での導入は、あくまで「補助ツール」として捉えるのが現時点では妥当です。
AIが変える建築家とCG制作者の役割
AIの導入によって、建築家やCG制作者の役割も大きく変わり始めています。これまで「描く」ことに主軸があった建築ビジュアライゼーションの仕事は、今や「指示し、演出する」方向へとシフトしつつあります。AIとどう分担し、どのように協働するのかが、今後の表現力と実務力の鍵になります。
「表現者」から「ディレクター」へのシフト
建築パース制作者は、これまで自らの手でCGを構築し、照明・構図・素材を細かく調整する「表現者」としての役割を担ってきました。しかし、生成AIの登場により、直接の操作よりも「どう見せるか」「どう伝えるか」を設計・指示する「ディレクター」的な立場が求められるようになっています。
AIツールでは、構図やスタイルをプロンプトで指定し、その結果を確認・修正する工程が中心です。このプロセスでは、表現者の感覚以上に「選定力」や「フィードバック能力」が問われます。出力結果をどこまで採用し、どこを修正するか、その判断が作品の完成度を左右します。
たとえば、Midjourneyで外観パースを生成する際、意匠性の強い建物を扱うと、特徴がAI的に抽象化されすぎることがあります。そこで、ディレクターはAIの表現を補正し、設計意図に沿った方向へ導く必要があります。
このような役割変化は、単なるツールの使い分けではなく、制作の思想そのものに関わる転換です。人間がすべてを描く時代から、AIのアウトプットを演出し、監修する時代へと進んでいるのです。
設計意図をどうAIに翻訳するか
生成AIを使いこなす上で鍵となるのが、「設計意図の翻訳力」です。建築家が持つコンセプトや空間の狙いを、AIに正しく伝えるには、抽象と具体のバランスをとった言語設計が不可欠です。
まず必要なのは、空間の性格を短く正確に表す能力です。たとえば「包まれるような居心地」といった抽象的な意図を、「低天井」「マットな素材感」「暖色系の間接光」といった具体的なプロンプトに落とし込むことが求められます。
次に重要なのが、誤解の生じやすい言葉を避け、AIが処理しやすいワードを選ぶことです。たとえば「洗練された」という言葉では結果が曖昧になりますが、「ミニマル」「直線的」「無彩色」などと細分化すれば、出力はより安定します。
実務では、試行錯誤の中で「よく効くプロンプト集」を構築し、目的ごとに再利用できるようにしておくと効率が上がります。設計意図をそのまま伝えるのではなく、AIが解釈しやすい表現に再構成する力が、今後の制作において極めて重要になります。
新しい共同制作モデル(AI+人間チーム)の可能性
AIと人間が補完し合う制作体制は、今後のスタンダードになり得ます。AIは大量のアイデアを高速で出力できますが、その中から意味のあるものを選び、設計に落とし込むのは人間の役割です。この「選ぶ力」や「意味づける力」が、制作チーム内で新たな価値を生みます。
たとえば、AIが20枚の外観案を数分で出力し、建築家とCGチームがその中から使えるビジュアルを選定・調整するというフローは、実務のスピードを大幅に向上させます。このとき重要なのは、AIの結果を評価する目と、そこから方向性を定めていくファシリテーション力です。
また、役割分担として、プロンプト設計に特化したスタッフ、出力後の修正を担当するCGアーティスト、最終構成を判断する設計者など、従来とは異なるチーム編成も可能になります。これは、属人的な制作から「編集型制作」への移行を意味します。
AIと人が対立するのではなく、得意分野を分担する協業体制へと進化することで、建築表現の質と量を両立できる新しい制作モデルが見えてきます。
生成AI時代の建築表現思想
生成AIの普及により、建築パースにおける「表現の意味」が再定義されつつあります。リアルを再現することだけが価値ではなくなり、抽象的・概念的な提示や、情報と想像のバランスが重視されるようになっています。本章では、AI時代における建築表現の思想的転換と、その課題について考察します。
「リアルの再現」から「概念の提示」へ
建築パースはこれまで、いかに「リアルに見せるか」を重視してきました。写真のような質感や光の再現、スケール感の正確さが評価軸の中心にありました。しかし生成AIの登場によって、パースの役割が「現実の模倣」から「概念の視覚化」へと変わりつつあります。
たとえば、ある設計事務所では、建物の詳細が未確定の段階でも、AIによる抽象的な外観ビジュアルを用いて、設計コンセプトや空間の印象を伝えています。ここでは、現実の忠実な再現よりも、「どういう価値観の空間か」を視覚的に共有することが優先されています。
このような使い方では、正確な寸法や素材よりも、色調、構図、光の印象などが重要になります。生成AIはまさにこの領域を得意としており、設計の初期段階において「方向性の提示」や「議論のきっかけ」として大きな力を発揮します。
結果として、建築パースの意味が「設計の結果を説明するもの」から「設計の意図を探るもの」へと変化してきているのです。
情報量と想像力のバランス
生成AIが生み出す画像は、高解像度かつディテールに富んでいることが多く、一見すると「完成されたビジュアル」に見えます。しかし、情報が多すぎることで逆に「解釈の余地」や「想像の幅」が狭まり、受け手にとって固定的な印象を与える可能性もあります。
建築表現においては、すべてを明確に描かず、あえて余白を残すことでクライアントや設計者の想像力を喚起することが重要です。とくに初期提案段階では、見る側が自由に解釈できる程度の曖昧さが効果的に働きます。
たとえば、ある住宅設計プロジェクトでは、生成AIで意図的に抽象度の高い内観イメージを用い、住まい手のライフスタイルの話を引き出すきっかけにしています。ここでは情報量を「減らす」ことで、対話の質を高めるという逆説的な活用がなされています。
このように、パースに込める情報量と受け手の想像力のバランスは、AI時代の建築表現において重要な設計要素の一つになってきています。
倫理的・著作権的リスクとその対策
生成AIを建築表現に使う際には、著作権や倫理の問題にも注意が必要です。AIが学習している画像データの出典が不明確であることが多く、生成物に既存の作品と類似した要素が含まれるリスクがあるためです。
たとえば、MidjourneyやStable Diffusionなどは、インターネット上の大量の画像を学習素材として使っており、明示的な許諾が得られていないデータも含まれている可能性があります。そのため、生成画像をそのまま商用利用する場合、第三者の権利を侵害してしまうリスクがあります。
これに対しては、次のような対策が考えられます:
- AI画像はあくまで参考用とし、最終成果物はオリジナル素材で仕上げる
- プロンプト設計で特定作家名などを使用しない
- 商用利用可能なモデル(Adobe Fireflyなど)を選定する
- 社内で利用ガイドラインを策定し、クリアな使用範囲を定める
また、社外向け資料では「AI生成画像を含むこと」「参考ビジュアルであること」を明記することで、説明責任を果たすことも大切です。
今後は、法制度や契約書のテンプレートも整備されていくと予想されますが、現時点では「慎重すぎるくらいがちょうどよい」と考えるべきでしょう。
今後の展望と学ぶべきスキルセット
生成AIの進化は止まらず、建築ビジュアライゼーションの世界でも、その活用範囲はますます広がっています。こうした流れの中で、建築パース制作者や設計者に求められるスキルセットも変化しています。ここでは、今後のキャリア形成に役立つ具体的な学習分野と、新しい表現への期待について整理します。
プロンプトデザインと構図理論の融合
生成AI時代において重要なのは、言語と視覚の融合スキルです。具体的には、プロンプト設計と構図理論をセットで考えられる力が、パース制作者や建築家にとって不可欠になります。
プロンプト設計では、出力される画像の構図や視線誘導、色彩バランスなどに大きく影響を与える要素を言語化する必要があります。たとえば「ローアングルから見上げた木造住宅」「斜め光が差し込むリビング」といった指示によって、構図と空気感の両方を制御できます。
一方、構図理論は従来からあるスキルで、三分割構図や対角線構図、余白の取り方などが含まれます。これらを理解していることで、AI出力の評価と選定が的確になり、より意図に合ったイメージを引き出しやすくなります。
実務では、優れたプロンプトと構図の組み合わせによって、短時間で高い訴求力を持つビジュアルが制作できます。今後は「言語+構図」を同時に設計できる人材が重宝されるようになるでしょう。
建築AIリテラシーとツール習熟の必要性
生成AIを業務に活用するためには、ツールの使い方だけでなく、その裏にある仕組みや限界を理解する「AIリテラシー」も欠かせません。これは単なる操作スキルとは別の、判断力やリスク管理力を伴う総合的な能力です。
たとえば、生成AIがどのような学習プロセスで画像を作っているのかを知ることで、なぜ特定の誤差や偏りが出るのかを理解しやすくなります。Midjourneyで意図と異なる構図が出る理由、Stable Diffusionで手の形状が崩れる原因などを知ることは、改善への第一歩です。
さらに、ツール選定やバージョン管理、プロンプトの工夫、後処理との組み合わせなど、制作フロー全体を俯瞰する力も求められます。これにより、効率的かつ品質の高いワークフローを自ら設計できるようになります。
今後は、AIツールを「使える」ことだけでなく、「使いこなせる」人材が現場での主導権を握るようになるでしょう。
教育・研修分野におけるAI活用の可能性
建築教育の現場でも、生成AIの活用が進み始めています。とくに設計演習や表現トレーニングにおいて、短時間で多様なアウトプットを得られる点が評価されています。
たとえば、大学の設計課題において、学生がアイデア段階で生成AIを使い、複数のイメージを並べて検討することで、コンセプトの深堀や方向性の整理がしやすくなるという報告があります。また、建築系の企業研修でも、プロンプト設計ワークショップや画像評価トレーニングなどが導入されはじめています。
こうした教育活用のポイントは、「AIが考えてくれる」ではなく、「人が考える補助として使う」位置づけを明確にすることです。単なる便利ツールではなく、思考を深める装置として活用する姿勢が、今後の教育効果を左右します。
教育段階からAIへの理解を深めておくことで、実務にスムーズに接続できる人材が育ちやすくなります。
生成技術がもたらす「新しい建築表現」への期待
生成AIの普及は、単なる表現手法の変化にとどまらず、「建築とは何を表現するのか」という根源的な問いにも影響を与えつつあります。今後は、空間性や構造性を超えて、もっと概念的で、詩的な建築表現も可能になるでしょう。
たとえば、「記憶に残る廃墟」「雲と融合する都市」「呼吸するファサード」など、従来のCADやCGでは描きにくかったテーマが、生成AIによって視覚化できるようになっています。これは、建築を「図面で定義された空間」から、「物語や感情を宿す存在」として表現できる可能性を広げます。
こうした表現の拡張は、建築家の思考にも変化を促し、新しいコンセプト創出や設計手法につながると考えられます。生成AIは、技術革新であると同時に、表現思想の進化を後押しする存在でもあるのです。
今後の建築ビジュアライゼーションは、「つくる力」だけでなく、「問い直す力」も問われる時代に入っていくでしょう。
FAQ|AI建築パース制作のよくある疑問
生成AIを建築パース制作に取り入れる際には、実務的・法的な観点から多くの疑問が寄せられます。特に、商用利用の可否や著作権、クライアントとの説明責任などは、現場での判断に直結する重要なポイントです。本章では、現時点でよくある質問とその対応策をQ&A形式で整理します。
Q1.生成AIで作ったパースは商用利用できる?
生成AIで制作したパース画像の商用利用は、ツールの種類と利用規約によって可否が分かれます。たとえば、Midjourneyでは有償プラン加入者であれば商用利用が許可されていますが、無料プランでは不可とされています。Stable Diffusionもモデルによってライセンスが異なり、一部の拡張モデルでは商用利用に制限があります。
DALL·Eは、OpenAIが提供する商用ライセンスに基づき、生成画像の商用利用が原則可能とされていますが、企業利用の場合はAPI経由の利用が推奨されるなど、運用面のガイドラインがあります。
商用利用時は、以下の点を必ず確認しましょう:
- 使用するAIツールの利用規約・ライセンス条項
- 商用可否の条件(有料プラン、API経由等)
- モデルや追加データの著作権状況(LoRA等)
また、利用規約は頻繁に更新されるため、使用時点での最新情報を公式サイトで確認することが重要です。誤った認識のまま進めると、納品後に法的なトラブルに発展するリスクがあります。
Q2.AI生成画像の著作権は誰にある?
AIで生成された画像の著作権については、国や管轄によって解釈が異なります。日本の現行法では、著作物は「人間の創作によるもの」に限られるため、AIが自動生成した画像には著作権が発生しないと考えられています(2025年時点)。
つまり、著作権という意味では無主物扱いとなり、法的には「誰のものでもない」状態になります。ただし、その画像を利用した制作物には、二次的著作物としての権利や契約上の扱いが付加されるケースがあります。
一方、米国では生成画像に部分的な著作権を認めた事例や、逆に却下された判例も存在しており、世界的には過渡期にあります。今後も法制度の改正や判例の積み重ねによって変動が予想されます。
したがって実務では、著作権の有無に関わらず、生成物の利用範囲や再使用条件を契約上で明確に定めることがトラブル回避の鍵になります。クライアントに対しても、その点を事前に説明しておくと安心です。
Q3.クライアントワークにAI画像を使う際の注意点は?
クライアントに提出する資料にAI生成画像を使う場合、いくつかの配慮が必要です。最大の注意点は、「生成画像が実際の設計を忠実に反映しているわけではない」という事実を、クライアントが誤解しないよう説明することです。
たとえば、意匠や寸法が曖昧な状態の画像を「最終案」と誤認されると、後々の修正や信頼性の問題につながる可能性があります。そのため、以下のような対応を推奨します:
- 初期提案資料では「AI生成イメージ」と明記する
- 最終図面とは異なることを口頭でも伝える
- 意図を補足するスケッチや図面と併用する
- AI画像の活用範囲(参考・雰囲気提示)を合意する
とくに公共案件やコンペなど、審査基準が厳密な場面では、AI画像の使用可否自体が問われることもあるため、事前の確認が欠かせません。
AIは魅力的な表現力を持ちますが、それをどう「伝えるか」「説明するか」が、プロフェッショナルとしての責任の一部となっています。
Q4.AI導入でCGデザイナーの仕事はなくなる?
生成AIの導入により、CGデザイナーの仕事が減るのではないかという懸念もあります。しかし実際には、単純な作業の一部が自動化される一方で、新しい役割やスキルが求められるようになっています。
従来のように1から全てを作る必要が減ることで、クリエイターは「企画」「演出」「品質管理」といった上流工程に時間を割けるようになります。生成AIは案出しや構図検討を加速するツールとして活用され、最終仕上げやリアルな建築的表現は人間の手によって補完され続けています。
実務の現場では、次のようなスキルが新たに注目されています:
- プロンプト設計力と構図理論の融合スキル
- AI生成画像の編集力(Photoshop等との連携)
- 意図を可視化するディレクション能力
- AIを用いたプロトタイピング力
つまり、単なるオペレーターではなく「ビジュアル戦略を設計できる人材」へと役割が進化しているのです。CGデザイナーにとっては、むしろ成長のチャンスと捉えるべきフェーズにあると言えるでしょう。
