
建築3DCGの仕組みとは?リアルに見える理由を4つの構造から徹底解説【2025年最新版】
建築3DCGは、建物の完成イメージを視覚的に伝えるために欠かせない技術です。ですが「なぜあれほどリアルに見えるのか?」と疑問に思ったことはありませんか。そこには、設計・表現・描画の各工程で精密に組み立てられた仕組みがあります。
本記事では、建築3DCGをリアルにする4つの基本構造――「形・素材・光・描画」について、世界最高峰の3DCG実務視点でわかりやすく解説します。それぞれの技術がどのように連動してリアリティを生み出すのか、具体的な手法や設定例を交えて掘り下げていきます。
はじめて学ぶ方から、プロとして表現の幅を広げたい方まで、「なぜリアルに見えるのか」が腑に落ちる構成です。読み終わるころには、仕組みと技術の全体像がつかめるはずです。
建築3DCGをリアルにする「形・素材・光・描画」4つの基本構造とは
建築3DCGが「実物のように見える」理由は、主に4つの技術要素に分解できます。形を作る「モデリング」、素材感を演出する「マテリアル」、空間の印象を左右する「ライティング」、そして最終的な描画を担う「レンダリング」です。それぞれが相互に影響し合い、現実に近いビジュアルを生み出しています。
モデリングが担う「形」の再現|建築物の正確な構造をつくる
建築3DCGにおいて「形」を作る工程がモデリングです。この段階では、建築図面やスケッチをもとに、建物の寸法や構造を正確に再現します。空間のリアルさは、この形状の正確性によって大きく左右されます。
例えば、柱や梁の太さ、壁厚、開口部の位置などが現実とずれていると、視覚的な違和感が生まれます。そこで実務では、ミリ単位での精度を意識しながら3D形状を組み上げていきます。
また、建具や意匠的な要素も細かく再現することで、よりリアリティのある空間を表現できます。最近では、BIM(Building Information Modeling)との連携により、設計情報と一致したモデリングが主流になりつつあります。
最終的に、モデリングは建築CGの「土台」となる工程です。ここが正確であるほど、以降の質感表現やライティングが活きてきます。
マテリアルが与える「素材感」|質感・色・反射の仕組み
モデリングで形ができたら、次は表面の素材感をつける「マテリアル設定」に進みます。マテリアルとは、色・光沢・反射・透明度などを制御する仕組みで、素材が何でできているかをCG上で再現する要素です。
たとえば、木材なら少し粗めの質感と控えめな反射、金属なら滑らかで強めのハイライトが特徴です。これを再現するには、ベースカラー・ラフネス(粗さ)・メタリック(金属度)などのパラメータをPBR(物理ベースレンダリング)方式で設定します。
現実の素材感を伝えるには、テクスチャ画像を使って木目や石材の模様を再現することも重要です。リアルなマテリアルは、素材そのものの印象だけでなく、空間全体のクオリティにも大きく影響します。
マテリアルは「視覚的な説得力」を高める中核要素です。建築CGでは、素材の正確な描写が設計意図の伝達に直結します。
ライティングによる「光の演出」|空間の印象を左右する要素
ライティングは、シーンに光を与えて空間の印象を決定づける工程です。自然光や照明器具を模した光源を配置し、強さ・色・角度を調整して、空間の奥行きや雰囲気を演出します。
光源の種類には、点光源・スポットライト・エリアライト・HDRI(高輝度全天球画像)などがあり、建築CGではリアルな照明シーンを作るために使い分けます。特にHDRIを使うと、全天候・全天候・全天候光の再現がしやすく、リアルな屋外シーンに適しています。
また、光の位置と方向によって影の出方や反射が変わるため、マテリアルと組み合わせた調整が重要です。たとえば、窓から差し込む自然光で床材が反射するような演出が、空間にリアリティを与えます。
ライティングは「空間の空気感」を作る要です。設定を工夫することで、同じモデルでも印象を大きく変えられます。
レンダリングで完成する「リアルな描画」|最終的なビジュアル出力
最後に、すべての設定をもとに画像として出力する工程がレンダリングです。モデリング・マテリアル・ライティングで構築した情報を計算し、1枚の完成画像に仕上げます。
建築CGでは、パストレーシング方式が主流で、光の反射や拡散をシミュレーションすることでリアルな映像を生成します。また、サンプル数を調整することで、ノイズの少ない高画質な画像を出力できます。
レンダリング後は、トーンマッピングや色調補正を加えて印象を整えることも一般的です。これにより、素材の質感や光のニュアンスがさらに明確になります。
レンダリングは「リアルさを視覚化する最終ステップ」です。ここでの設定や精度が、完成品の品質を左右します。
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建築3DCGを構成する「モデリング・マテリアル・ライト」の基本と役割をわかりやすく解説
建築3DCGのモデリングとは?リアルな形状を作るための設計構造
建築3DCGにおけるモデリングは、空間のリアルさを決定づける土台です。建築図面をもとに、正確な寸法・構造・意匠を3D空間に再構築することで、設計意図を視覚化できます。この記事では、基本構造からディテールまで、実務で使えるモデリングの考え方と進め方を解説します。
モデリングの基礎知識|ポリゴン・法線・スムージングの役割
建築3DCGのモデリングでは、まずポリゴン構造の理解が不可欠です。ポリゴンは「点(頂点)」と「辺(エッジ)」、そして「面(フェース)」から構成され、建築形状のすべての基盤となります。
法線(ノーマル)は、各ポリゴンの表面方向を示すベクトルで、スムージングとの組み合わせによって見た目の滑らかさに大きく影響します。たとえば、曲面を作るときにスムージングを適切に使うことで、ポリゴン数を抑えつつ自然な仕上がりが得られます。
実務では、LOD(Level of Detail)やビューポート負荷を意識して、形状の精度と軽さをバランスさせるのがポイントです。高精度すぎる形状は処理負荷が高くなるため、出力用途に応じたポリゴン密度の調整が求められます。
ポリゴン構造と法線の扱い方を理解することが、見た目のリアリティと作業効率の両立につながります。
寸法と基準線で正確な構造を設計する|建築3Dモデルの初期設計
リアルな建築CGを作るには、正確な寸法と基準線に基づく設計が欠かせません。実務では、CAD図面やBIMデータから寸法を読み取り、スナップやグリッド機能を活用して3D空間に反映します。
具体的には、XY軸・Z軸を意識した基準面を設定し、基礎・壁芯・階高などの寸法を正確に反映します。たとえば、天井高2400mm・床厚150mmなどの基本寸法を押さえることで、後の空間バランスも取りやすくなります。
また、モデルのスケール設定(単位系)は初期段階で必ず統一し、外部データとの整合性を確保しておくことが重要です。異なる単位系での作業は、後々の不具合やスケール違いを招きやすくなります。
初期設計の段階で、図面と一致する構造をつくることが、その後のリアルな空間表現の基盤となります。
壁・床・建具を構築するステップ|建築空間の立体化プロセス
建築空間を3D上に構築する際は、構造の基本要素から順に立体化していきます。代表的な構成要素は「床 → 壁 → 建具 → 天井」の順で組み上げるのが一般的です。
たとえば、まず床スラブ(t=150mm)を配置し、その上に壁をZ軸方向に立てていきます。開口部はブーリアンやカット機能を用いて設定し、窓やドアの位置を明確にします。
ドアや窓などの建具は、パーツとして別オブジェクトで作成し、差し込み方式で配置することで編集性が上がります。同様に、階段や天井などの水平・垂直構造も、個別に管理すると後工程での変更がスムーズです。
このプロセスを丁寧に行うことで、建築らしい整った空間構成ができ、クライアントや設計者とのやりとりもスムーズになります。
ディテールや意匠の作り込み|仕上げでリアルさを高める工夫
ベースの形状が完成したら、次は意匠や細部の作り込みに入ります。モールディング、サッシ、巾木、目地など、実際の建築で見られる装飾要素を追加することで、モデルの説得力が格段に高まります。
たとえば、壁と床の境界に巾木(高さ80mm程度)を入れるだけでも、空間のリアリティが増します。サッシ枠や窓周りの形状を正確に作ることで、マテリアルとの親和性も向上します。
注意点としては、ディテールの作り込みが過剰になると、レンダリング負荷が高くなるため、LODや表示距離に応じたバリエーションを用意するのが理想的です。
仕上げの段階では、「見せたい距離感」に応じて必要なディテールだけを丁寧に作り込むことが、リアルさと効率の両立につながります。
建築3DCGにおけるマテリアルの仕組み|リアルな質感を再現する方法
建築3DCGのリアリティは、形だけでなく「素材感」の再現によっても大きく左右されます。その鍵となるのがマテリアルです。この記事では、マテリアルを構成するパラメータの基本から、素材ごとの表現方法、ライティングとの関係まで、質感再現に必要な知識を解説します。
マテリアルの基本構成|ベースカラー・粗さ・金属度など
建築3DCGにおけるマテリアルは、表面の質感を物理的に再現するための設定群です。現在主流の方式は「PBR(Physically Based Rendering)」と呼ばれ、現実の光の反応に基づいたマテリアル表現が可能です。
PBRマテリアルの基本パラメータには、以下のようなものがあります。
- ベースカラー(Base Color):素材の基本的な色
- ラフネス(Roughness):表面の滑らかさ/ざらつき
- メタリック(Metalness):金属かどうかの判定
- ノーマルマップ:表面の凹凸を視覚的に再現
- AO(Ambient Occlusion):陰影の微細な強調
たとえば、白い壁面を表現する場合は、ベースカラーをわずかにグレーに、ラフネスを0.8〜0.95程度に設定すると、光沢を抑えた現実的な仕上がりになります。
こうした各パラメータを正しく理解し、用途に応じて調整することが、リアルな素材感を作る第一歩です。
建築素材ごとのテクスチャ選定と質感表現のポイント
マテリアルをリアルに見せるためには、素材ごとに適したテクスチャ画像を選定し、パラメータと組み合わせて活用する必要があります。
たとえば、
- 木材:木目の方向性を明示し、微細な凹凸(ノーマルマップ)でリアルさを強調
- 金属:反射率を高め、メタリック値を1に設定。金属特有のハイライトが出るように調整
- コンクリートや石材:粗めのラフネス(0.6〜0.9)でザラつきを演出。AOで陰影を強調
商用または無料のテクスチャライブラリ(例:AmbientCG、Poly Havenなど)を活用することで、質の高いマテリアルが構築できます。
素材の特性に合ったテクスチャとパラメータの組み合わせが、建築CGにおける素材感の説得力を決める要因になります。
表面の光沢・粗さ・反射率を調整するパラメータの考え方
建材の見た目を左右するのは、実は色よりも「光との反応」です。その中心となるのが、ラフネスと反射率(Specular/Reflectance)です。
- ラフネスが低い(例:0.1)→ 鏡面のような反射
- ラフネスが高い(例:0.9)→ 拡散的でマットな質感
反射率は素材の性質により固定されることもありますが、金属以外ではおおむね0.04(4%)前後が基準です。金属素材の場合、反射はベースカラーと密接に連動し、反射光に色味が乗るのが特徴です。
また、ノーマルマップやバンプマップを組み合わせることで、微細な凹凸による光の乱反射も再現できます。特に近接シーンでは、この差が質感に大きく影響します。
設定の目的は「光の挙動をコントロールして見た目を整えること」。現実の素材にどれだけ近づけるかを意識して調整するのがポイントです。
マテリアルとライティングの相互作用による質感の変化
リアルな質感は、マテリアル設定だけでは完成しません。光の種類・方向・強度によって、同じマテリアルでも見え方は大きく変わります。
たとえば、木材のような素材では、斜めからの光が入ると凹凸や木目が際立ちます。一方、真上からの均一な照明では、平坦でのっぺりとした印象になりがちです。
また、光源が白熱灯のような暖色か、昼光色のような寒色かによっても、マテリアルの色味や反射感が変化します。HDRIライティングを使うと、現実の環境光に近い変化が表現しやすくなります。
このように、マテリアルとライティングは密接に影響し合います。質感を調整する際は、必ず光源の設定も含めて確認することが大切です。
建築3DCGライティングの基本|自然光と人工照明で空間を演出する
光の使い方は、建築3DCGの空間演出を大きく左右します。自然光と人工照明のバランス、光源の配置や色温度の調整によって、同じモデルでもまったく違った印象を与えることができます。ここでは、ライティングの基本構造と設定手法を詳しく解説します。
3DCGにおける光源の種類と役割(点光源・エリア光・HDRIなど)
建築3DCGでは、光源の種類と配置が空間の印象を大きく左右します。主な光源には「点光源」「スポットライト」「エリアライト」「HDRI」などがあり、それぞれに特徴と適した用途があります。
- 点光源(Point Light):一方向に均等に光を放つ。電球のような役割
- スポットライト:指向性が強く、スポット的な照明に使う。演出向け
- エリアライト:面で発光。実物の照明器具に近く、やわらかい影が出る
- HDRI(High Dynamic Range Image):全天球の環境光を再現。屋外シーンに特に有効
たとえば、室内の天井照明にはエリアライトを用いることで、現実的な拡散光を再現できます。一方、屋外シーンではHDRIを使うことで、空の色や太陽光の方向などが自然に再現されます。
ライティングの第一歩は、「どの光源をどう使うか」を理解し、シーンの目的に合った選定と配置をすることです。
自然光をリアルに再現するための設定方法と注意点
建築パースで最も重要な要素の一つが「自然光の扱い」です。リアルな自然光を再現するには、主に次の3つの方法があります。
- 太陽と空のシステム(Sun & Sky):日時・緯度・方角を設定することで現実の太陽光に近い光を再現
- HDRIライティング:全天球画像を背景と照明に活用。時間帯や天候を一括で反映できる
- スカイドーム+ディレクショナルライト:空全体の柔らかい光と、太陽光を別々に制御できる
HDRIを使用する場合は、画像の露出や色温度を調整することで、よりリアルな環境光が得られます。ファイル形式は32bitのEXRやHDRが望ましく、露出差をしっかり持つ画像を使うのがポイントです。
注意点として、太陽の位置と建物の影が不自然にずれると、リアリティが損なわれます。ライティング設定時には、建築設計と整合性のある太陽角度を確認しましょう。
室内・夜景で活きる人工照明の配置と調整テクニック
室内シーンや夜景表現では、人工照明の演出が不可欠です。建築CGでは、現実の照明器具に対応したライティングが求められます。
とくに使われるのがIESライトです。これは照明メーカーが提供する「実際の照明の配光パターン」を再現するデータで、現実の光の広がり方や明るさがシミュレーションできます。
設定手順の一例は以下の通りです。
- 建物の照明器具の位置にエリアライトまたはIESライトを配置
- 光の強度(ルーメン/カンデラ)や色温度(ケルビン)を調整
- 壁や床の反射率とのバランスを取りながら明るさを最適化
夜景では、光が当たる範囲より「暗い部分」が印象を左右するため、露出設定とトーンマッピングも重要になります。
人工照明の演出では、ただ明るくするのではなく「空間の意図や時間帯」を明確に伝える設計が効果的です。
光の方向・強度と素材の関係が与える印象の違い
同じモデルでも、光の当たり方次第で印象がまったく変わります。その中でも「光の方向」と「強度」は、素材の見え方に直結する重要な要素です。
たとえば、斜め上からの光が木材に当たると、木目や凹凸が強調されてリアリティが増します。一方、正面から均一な光を当てると、のっぺりとした印象になりがちです。
また、強すぎる光は素材の質感を飛ばしてしまうため、適切な光量に加え、エクスポージャー(露出)の調整が不可欠です。特に白っぽい素材では、ラフネスを高めて反射を抑えるなどの工夫が求められます。
実務では、ライティングを調整する際に「マテリアルの微調整」も並行して行い、最適なバランスを見つけることが多いです。
素材の魅力を引き出すには、光の設計こそが鍵になります。
建築3DCGのレンダリングとは?質感と光を最終画像に描画する仕組み
建築3DCGの仕上げとなる工程がレンダリングです。モデリング・マテリアル・ライティングで構築した情報を、最終的な画像として描画するプロセスであり、その品質が完成度を大きく左右します。この記事では、レンダリングの基本構造と高品質な出力を実現するための技術を紹介します。
レンダリングの基本構造|パストレーシングとサンプリングの考え方
建築3DCGのレンダリングでは、現実の光の動きを再現する「パストレーシング方式」が主流です。これはカメラから出た光線がシーン内のオブジェクトに当たる過程を追跡し、反射・屈折・影などをシミュレーションする手法です。
この際に重要になるのが「サンプリング」です。サンプル数とは、1ピクセルあたりの光線計算回数のことで、多いほどノイズが少なくなります。一般的には、プレビューレンダでは16〜64サンプル、本番用では512〜2000サンプル以上が使われます。
ただし、サンプル数が増えるほど計算時間も長くなるため、品質と時間のバランスが重要です。最近ではアダプティブサンプリングやノイズ除去機能(デノイザー)の活用により、効率的なレンダリングが可能になっています。
まずは「なぜサンプル数が必要か」「どう最適化するか」を理解することが、無駄な計算を減らして高品質を目指す第一歩です。
高品質な建築CGを実現するグローバルイルミネーションの活用
グローバルイルミネーション(GI)は、直接光だけでなく、壁や天井などに反射した間接光も計算する技術です。建築空間のやわらかい光のまわりや、実際の照明環境に近い描写を再現するために欠かせません。
GIの実装方法には、以下のようなものがあります。
- Brute Force + Light Cache(V-Ray)
- Path Tracing(Cycles, Arnold)
- Irradiance Map(古典的方式)
たとえば、V-Rayで室内シーンをレンダリングする際には、「Brute Force(一次反射)+Light Cache(二次以降)」を組み合わせるのが定番です。これは計算精度と速度のバランスが取れているため、実務でも多用されます。
設定のコツとしては、バウンス回数(反射回数)を最低でも3〜4にすること。低すぎると、室内全体が暗くなってしまいます。
GIは「空間の空気感」を生み出す鍵です。正しく使えば、現実に近い光環境を自然に再現できます。
ノイズ対策とサンプル数の最適化で効率よく高画質を出力
レンダリングにおいて悩ましいのが「ノイズの発生」です。特に暗部や反射の多い素材では、粒状のノイズが目立ちやすくなります。これを抑えるには、サンプル数を適切に設定し、合わせてノイズリダクションの機能を活用するのが効果的です。
効率的な手順の例は以下の通りです。
- プレビューレンダでノイズの出やすい箇所を確認
- 必要な部分だけローカルにサンプル数を上げる(Adaptive Sampling)
- 最後にAIデノイザー(NVIDIA OptiX など)で微調整
また、不要なマテリアルのバンプや反射設定を見直すことで、無駄な光の計算を減らすこともできます。たとえば、視認しない天井裏の材質に高反射素材を使っていると、見えない部分で処理負荷がかかります。
高画質=高負荷ではなく、「最適な設計」が重要です。品質と処理時間のバランスを意識した設定が、レンダリング効率を左右します。
トーンマッピングや色調補正で整える最終工程
レンダリングが完了したあとに行うのが「トーンマッピング」と「色調補正」です。これは、レンダリングされた画像のダイナミックレンジを調整して、視覚的にちょうどいい明るさや色味に整える工程です。
よく使われる設定項目には以下があります。
- 露出(Exposure):明るさの調整
- ガンマ補正:中間調の明暗バランス
- ホワイトバランス:色温度の補正
- サチュレーション:彩度の調整
たとえば、HDRIを使った昼間の屋外シーンでは、露出をやや抑えめに設定し、トーンカーブで空の色と建物のコントラストを整えると、自然な印象に仕上がります。
また、建築用途では「素材の見た目」が重要なため、過度な色味加工は避け、実物の質感が伝わる仕上がりを目指します。
トーンマッピングは「見せ方の最終調整」です。レンダリング後のひと手間で、完成度を一段上げることができます。
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レンダリングとは?光と質感を再現する仕組みを徹底解説【建築3DCG基礎】
フォトリアルとリアルタイムの違い|建築3DCGの描画方式を使い分ける
建築3DCGのレンダリングには、大きく分けて「フォトリアル」と「リアルタイム」の2種類があります。それぞれに描画方式や処理速度、用途が異なり、目的に応じて使い分けることが重要です。この章では、両者の違いや選定の考え方を解説します。
フォトリアルレンダリングの特徴|高精度で静止画に強い方式
フォトリアルレンダリングは、現実の光と素材のふるまいを物理的に再現することで、「写真のようなリアルな静止画」を作る方式です。建築CGにおいては、プレゼン用パースやコンペ資料など、細部の質感と光の描写が求められる場面で使われます。
代表的なレンダリングエンジンには、V-Ray/Corona Renderer/Arnold/Cyclesなどがあり、パストレーシング方式をベースに高精度な光計算を行います。
メリットとしては以下の通りです。
- 実物に近い陰影や反射を正確に描画
- 質感・マテリアルの細かな設定が反映されやすい
- 紙媒体やクライアント向けの静止画像に最適
ただし、レンダリング時間が長くなる傾向があり、1枚あたり数分〜数時間かかることもあります。
静止画の品質を最優先したい場合は、フォトリアル方式が基本になります。
リアルタイムレンダリングの特徴|プレゼンやVRに適した高速処理
リアルタイムレンダリングは、GPUを活用してフレーム単位での高速描画を行う方式です。インタラクティブ性が高く、ユーザー操作に即時に反応できるのが最大の特長です。
この方式は、プレゼンテーションやVR(バーチャルリアリティ)での空間体験に非常に適しており、主な対応ソフトにはUnreal Engine/Unity/Twinmotion/Enscapeなどがあります。
主なメリットは以下の通りです。
- 操作のたびに即座に画が更新される(高い即時性)
- 視点を自由に動かしながらプレゼンが可能
- VRゴーグルによる没入型の空間体験ができる
ただし、表現できる質感やライティングの精度は、フォトリアル方式に比べてやや簡略化されていることが多いです。
「動きながら見せる」用途には、リアルタイムレンダリングが圧倒的に有利です。
画質と速度の違いを生むレンダリング技術の仕組み
フォトリアルとリアルタイムの違いは、「光の計算方法」と「出力までに使える時間」にあります。
- フォトリアル:パストレーシングやラジオシティを使い、1ピクセルごとに正確な光の反射や屈折を計算
- リアルタイム:ラスタライズ方式やプリベイク(事前計算)を使って高速表示を実現
たとえば、フォトリアルでは1枚の画像に数千〜数万回の光線追跡が必要ですが、リアルタイムでは影や反射をあらかじめテクスチャに焼き込んで描画処理を簡略化しています。
そのため、前者は「画質重視」、後者は「速度重視」となり、処理方式の違いが仕上がりに直結します。
どちらが優れているかではなく、「目的に合った方式を選ぶこと」が重要です。
用途に合わせたソフト・ワークフローの選び方
レンダリング方式の選定は、使用目的に応じた「制作ツールとフロー」の選び方に直結します。
| 用途 | おすすめ方式 | 使用ソフト例 |
|---|---|---|
| 静止画パース | フォトリアル | V-Ray、Corona、Cycles |
| 設計検討・プレゼン | リアルタイム | Enscape、Twinmotion |
| VR体験・操作説明 | リアルタイム | Unreal Engine、Unity |
| 高精度のCM・動画 | フォトリアル | Arnold、V-Ray(アニメ対応) |
実務では、モデリングやマテリアル設定までは共通化し、レンダリングだけ目的に応じて分岐させることが多いです。BlenderやSketchUpで形状を作り、Twinmotionでリアルタイム出力、V-Rayで静止画仕上げ…といった柔軟な構成が可能です。
最適なレンダリング方式は「誰に・何を・どう見せたいか」によって変わります。最初にゴールを明確にしてから、ツールとフローを設計するのがベストです。
関連記事:
建築3DCGパースがリアルに見える理由を構造的に理解する【初心者向け完全版】
よくある質問(FAQ)
ここでは、建築3DCGに関するよくある疑問に回答します。これから学びたい方や、制作フローでつまずきがちなポイントを確認したい方に向けて、実務視点でわかりやすく解説します。
Q1.建築3DCGはどうして実物のように見えるの?
建築3DCGが実物のように見えるのは、「形・素材・光・描画」という4つの構造が連動しているからです。
具体的には、モデリングで正確な形状をつくり、マテリアルで現実の素材感を再現し、ライティングで空間の印象を演出し、レンダリングでその情報を正確に描画します。これらがバランスよく組み合わさることで、視覚的な違和感のないフォトリアルな表現が実現します。
どれか1つが粗いだけで、リアリティは大きく損なわれるため、4要素の総合的な調整が不可欠です。
Q2.どの工程が一番リアルさに影響するの?
リアルさに最も影響するのは「マテリアルとライティングの相互作用」です。
モデリングが正確でも、素材感や光の当たり方が不自然だと、リアルな印象は得られません。逆に、ライティングとマテリアルの設定が丁寧であれば、多少形が簡略化されていても自然に見えるケースもあります。
実務では、最終的な見え方を重視する場合、まずライティング環境を整えた上で、マテリアルの質感を調整するのが基本です。
Q3.レンダリング時間はどうやって短縮できる?
レンダリング時間を短縮するには、次のような対策が有効です。
- サンプル数の見直し:不要に高く設定していないかチェック
- ノイズ除去機能の活用:AIデノイザーを併用して計算量を減らす
- 不要な反射・透過を削減:隠れた面や小物に負荷の高い設定を使わない
- GPUレンダリングの導入:対応していれば大幅な高速化が可能
たとえば、BlenderのCyclesでは、サンプル数を300→128に抑えつつデノイズをONにすれば、体感で半分以下のレンダリング時間になります。
出力解像度やカメラ距離に応じて、適切な設定に調整することが効率化のカギです。
Q3.フォトリアルとリアルタイム、どちらを選べばいい?
選ぶべきレンダリング方式は、「用途」によって明確に分かれます。
- 静止画で美しく見せたい → フォトリアル
- 動きながら操作したい/プレゼンで使いたい → リアルタイム
たとえば、建築コンペで提出するパースはフォトリアルが適していますが、施主へのプラン説明やVR提案にはリアルタイムのほうが効果的です。
また、リアルタイム用に作成したモデルを、あとからフォトリアルで仕上げるといったハイブリッド運用も可能です。目的を明確にして、最適な方式を選ぶのが成功のポイントです。
